川の名を受け継いだ港町
都市篇第七十四号は、コートジボワールの海岸都市ササンドラです。前号のサンペドロから海岸を東へ進みます。二つの町は、港の役割が移った歴史でもつながっています。
日本語の資料にはカタカナのササンドラが現れます。一方、地名データベースには都市を指す四字の薩桑德拉があります。この四字を日本語の古い呼称や公的な制定名と取り違えず、町の名と港の歴史をたどります。
日本語では「ササンドラ市」
国際協力機構(JICA)の事業紹介は、漁業を基幹産業とするササンドラ市で水揚施設と中央市場を整備したと記しています。対象が川や広域行政区ではなく、市の水揚場と市場であることが文脈から分かります。本稿も現代日本語都市名をササンドラとします。
国立国会図書館サーチには、この事業のJICA報告書の書誌が登録されています。今回確認した日本語の公開資料では、都市に直接用いられた歴史的漢字表記の原典を特定できませんでした。資料の探索範囲で未確認という意味であり、存在しなかったと断定するものではありません。そのため歴史表記は登録せず、継続調査とします。
地名データベースの「薩桑德拉」
GeoNamesの識別番号2281951は、Sassandraをコートジボワールの「populated place」、すなわち人が住む場所として登録しています。その別名欄には、繁体字の薩桑德拉があります。川だけの項目から都市名へ字を移したのではなく、都市の項目に現れる用例です。
ただし、GeoNamesの別名欄だけでは、この字形を最初に選んだ人物、採録元の原資料、日本語での使用実績は分かりません。政府や国連がこの都市の漢字名として承認した、という資料でもありません。「都市を指す既存のデータベース用例」と「日本語の歴史的漢字名」は別に扱います。
中国外交部の「萨桑德拉河的前世与今生」は、簡体字の萨桑德拉を川に対して用いています。川名が都市名と同じ綴りでも、この記事を都市の漢字表記の直接用例には数えません。
二文字・三文字に縮めない理由
都市篇は二文字・三文字を標準にします。しかし今回確認した都市の漢字直接用例は、GeoNamesにある四字の薩桑德拉です。出典に裏付けられた二字形・三字形は特定できませんでした。
「薩桑」や「桑德」のように任意の二字を抜き出しても、どの音を残すかの根拠がありません。字数を合わせるための機械的短縮はせず、四字のまま候補を置きます。これは標準字数から外れる意図的な例外です。
薩桑德拉を本誌で日本語の都市索引へ取り込む区分は、創とします。これは、既存の繁体字用例を手がかりに本誌が暫定的に選ぶという意味です。日本語の伝統的表記を継承する「伝」や、日本語史料に見えることを示す「史」とはしません。
Gogbé Djbriと川の名
サンペドロ大学が公開するKouakou Siméon KouassiとKoffi Innocent Diezouのグラン・バッサムに関する研究は、導入部で、当地のGogbé Djbriという名が、川のRio Santa Andreaに由来するSassandraへ変わったと説明しています。これは研究者による地名史の記述として扱います。
中国外交部の川に関する記事は、1471年にポルトガルの航海者が川をRio San Andreaと名づけた、と記します。しかし、川の名をつけた人物と、その名を現在の都市に結び付けた人物は同一とは限りません。都市名の採用者や採用年は、今回の資料から確定できません。
川から都市へ名前が移ったという説明は、この町の地名を考える手がかりです。同時に、同じSassandraが川、町、県、広域の地名に現れるため、漢字用例を採録するときには何を指すかまで確かめる必要があります。
1951年のワーフとサンペドロ港
JICAのササンドラ市に関する準備調査は、1951年にワーフが建設された後、ササンドラの水揚場が貨物の積出港として発展したと記します。ところが、1972年のサンペドロ港開港でその機能は弱まり、漁業が再び地域経済の重要な柱となりました。
前号で見たサンペドロの港湾整備は、隣の町から見れば港の重心が動く出来事でもありました。JICAはその後、ササンドラの水揚施設と中央市場を分けて整備しました。完了した事業の紹介は、魚の流通と市街地の混雑を改善する狙いと成果を記しています。かつての貨物港というだけでなく、漁業と市場を持つ町として読み直せます。
コートジボワール政府の資料は、ササンドラをグボクレ州の中心都市としています。国の首都は日本国外務省によればヤムスクロであり、ササンドラは首都ではありません。
座標と人口の範囲
地図に用いるGeoNamesの都市代表点は、北緯4.953843119819716度、西経6.085309982299805度です。これは人口居住地を示す点で、市役所の位置や行政境界の重心を精密に測った値とは扱いません。
コートジボワールの2014年国勢調査は、ササンドラのコミューン人口を45,093人と記します。基準日は2014年5月15日です。本誌の一覧には、行政上の市に対応するこの数字を掲載します。市街地だけを切り出した人口ではありません。
2021年国勢調査の別の表には、SASSANDRAが87,945人、ササンドラ県全体が353,228人とあります。しかし87,945人は「郡またはコミューン」の欄にあり、別の政府資料は同じ数字を郡人口としています。2014年のコミューン人口と範囲が一致するとは確認できないため、新しい数字というだけで一覧の45,093人に上書きしません。都市と郡と県の人口は分けて扱います。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
ササンドラ
所属国
コートジボワール
地名データベースの都市別名
薩桑德拉
暫定制定都市名
薩桑德拉――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字原典と字形の初出を継続調査
採らなかった表記と未解決点
川への用例である簡体字の萨桑德拉は、都市への直接用例として採りません。四字から任意に切り出した二字・三字形も採りません。
未解決なのは、日本語資料での都市の歴史的漢字表記、GeoNamesの薩桑德拉の採録元と漢字選定者、Gogbé DjbriからSassandraへ名が変わった時期と都市名の採用者です。確定できない名前や年は補いません。
参考資料
- 国際協力機構「ササンドラ市商業地帯開発のための船着場整備及び中央市場建設計画」
- 国際協力機構・ササンドラ市の水揚施設と中央市場に関する準備調査報告書(仏語、2016年)
- 国立国会図書館サーチ・JICAササンドラ関連報告書書誌
- GeoNames「Sassandra」(識別番号2281951)
- Kouakou Siméon Kouassi・Koffi Innocent Diezou「Grand-Bassam ville symbole de la cote d'ivoire à l’époque coloniale (1893-1960) : de l’opportunité d’une inscription au patrimoine culturel mondial de l’Unesco」(サンペドロ大学公開)
- 中華人民共和国外交部「萨桑德拉河的前世与今生」
- コートジボワール政府「グボクレ州とササンドラ」
- コートジボワール統計局「RGPH 2014 Population communale résidente」
- 2018年コートジボワール政令第654号(2014年コミューン人口の掲載)
- コートジボワール政府『RGPH 2021 Résultats globaux』
- コートジボワール政府・ササンドラ郡の人口を示す付属資料
- 外務省「コートジボワール共和国 基礎データ」
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第七十五号
次は、フレスコです。ササンドラからさらに東へ進み、同じ海岸の町の名と漢字表記を調べます。
