万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百五十四号|ゾーリンゲン――「索林根」の三字と、読みの隔たり――

市公式のSolingen、日本総領事館のゾーリンゲン市、中国総領事館の索林根を照合。短縮案と日本語音を意識した案を比べ、三字の既存形を暫定採用する。


市役所の綴りと三つの漢字

ゾーリンゲン市の公式サービス案内は、市長部局をKlingenstadt Solingenと掲げています。郵便宛先にもSolingenがあり、企業の商品名から推測せずに、自治体が使う綴りを確かめられます。

中国駐デュッセルドルフ総領事館の市長訪問報告に現れるのは索林根。三字とも日本語で使う漢字ですが、サク・リン・コンと音読みを並べてもゾーリンゲンにはなりません。既存の文字列を保つことと、日本語で自然に読めること。その二つを分けながら、今回は三字を暫定採用します。


歴史表記

ゾーリンゲンを指す日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 古い地理書や旅行記に索林根があったと主張できる資料は、今回得られていません。

確認した索林根は2023年の外交活動報告にある現代中国語の用例です。その記事に都市の歴史が長いと書かれていても、三字の表記自体がいつ生まれたかを示したことにはなりません。

また、市公式のKlingenstadt Solingenという表示は現在の自治体名の確認に用います。これだけで中世の原綴りや市名の語源、漢字の選字者まで説明することはできません。今回は現在名の照合から始めます。


日本語での用例

在デュッセルドルフ日本国総領事館の「【安全情報】ゾーリンゲン市で発生した刃物襲撃事件について」は、2024年8月24日付の案内です。見出しだけでなく、本文にもゾーリンゲン市内中心部という表現があります。

本稿で参照するのは、所在地を指すゾーリンゲン市という日本語の用字です。当時の安全情報を、現在の治安状況を述べる資料には用いません。また、事件や祭りの日付を漢字表記の成立年と結び付けることもしません。

現地市役所のSolingenと、現地を管轄する日本総領事館のゾーリンゲン市。この二つを市名の手掛かりとし、本誌の日本語名をゾーリンゲンとします。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐デュッセルドルフ総領事館の「杜春国总领事拜会索林根市长库尔兹巴赫」には、見出しと本文に索林根があります。掲載表示は2023年6月16日、本文が報じる訪問日は6月15日です。

URLには6月22日を表す数字が含まれますが、そこからページの表示日を書き換えません。人物の訪問、市名の使用、記事の掲載という三つを、それぞれ本文の記載に沿って読みます。

報告には「索市」という略した言い方もあります。ただし、これは市を表す語を伴った文脈上の省略です。索の一字がどこでもゾーリンゲンを表す、あるいは日本語で定着した略称であるとは扱いません。採用の根拠は、都市そのものを指す索林根の三字です。


二文字・三文字案の比較

索根

索林根から林を除いた、本誌の二字の比較案です。この二字を都市名として使う既存用例は未確認です。短くはなりますが、原文の中ほどを落とし、日本語名の「リン」を思い出す手掛かりも減ります。

索と根の普通の日本語の読みだけでは、ゾーリンゲン全体へ戻れません。字数を減らすことに、読みやすさの改善が伴わないため採りません。

曹林言

ソウ・リン・ゲンという日本語の音読みを意識して本誌が組んだ三字案です。索を曹へ、根を言へ置き換えます。長音や末尾へ近づけようとする案ですが、ソウとゾーにはなお清濁の隔たりがあり、現地の発音をそのまま写したことにもなりません。

この文字列の市名用例は未確認です。既存の索林根との対応を二か所変えるほどの利点が得られないため、比較案にとどめます。

索林根

総領事館が使った三字をそのまま残す案です。本誌の二字・三字という標準内に収まり、出典の文字を省略したり置換したりせずに使えます。

採る理由は出典へ戻りやすいことです。日本語の漢字音で発音が解決したからではありません。索林根にはゾーリンゲンの読みを添えます。 中国語での音写の仕組みを、日本語の音読みの規則と同じものとして説明しないようにします。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ゾーリンゲン

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

索林根

暫定制定都市名

索林根――既

制定状態

暫定制定・原典継続調査

確認した現代中国語の三字を無変更で用いるため「既」です。日本語の伝統的な表記として認定した「伝」や、歴史原典で確かめた「史」ではありません。

人口はDestatis年次版による2025年12月31日現在164,621人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、人口・自治体境界とも2025年12月31日、2026年8月刊の版です。対象はSolingen, Klingenstadtの自治体全体です。周辺自治体を合算した都市圏人口や、市内の一地区の人口は使いません。


採らなかった表記と未解決点

索根は文字の省略、曹林言は日本語の音を意識した新しい選字です。いずれも本誌が比較のために組んだ形で、史料にある異表記の一覧ではありません。

索林根を採っても、日本語の読みが自明になるわけではありません。日本語の歴史資料での使用、漢字形の初出、選字者、他の中国語圏の用字は継続調査です。総領事館の訪問記事の登場人物を、三字の命名者として記すこともできません。

短縮や置換を加える前に、確認できた文字列を残す。今回はその判断です。後に読みを伴う古い用例が見つかれば、用いられた時代と地域を確かめて再検討します。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百五十五号

次回はヘルネを予定しています。日本語論文のヘルネHerneと、中国語の黑尔讷を手掛かりに、字体を調整すると何が変わるのかを考えます。