四字を三字へ縮めてよいか
都市篇第三十九号は、セネガル東部の州都、タンバクンダです。
前号のカフリンから東西幹線をさらに進むと、タンバクンダに着きます。日本の国際協力機構は、任地をタンバクンダ州タンバクンダ県タンバクンダ市と記しています。州、県、市が同じ名を持つ点はカフリンと共通しますが、タンバクンダはさらに東部・南東部へ分かれる道路と鉄道の結節点です。
中国語圏では、Tambacoundaを、
坦巴昆达
と記す公的用例があります。日本で用いる字体へ直すと、
坦巴昆達
です。
ただし四字です。都市篇では二字・三字を主流にしています。既存の四字形を保つか、三字へ調整するかが今回の問いです。
日本語では「タンバクンダ市」
JICA海外協力隊の要請情報は、任地を「タンバクンダ州タンバクンダ県タンバクンダ市」と行政階層ごとに分けています。配属先が市内の保健センターであることも説明しており、州名だけを記した資料ではありません。
同じJICAの報告書には、タンバクンダ州、タンバクンダ県、タンバクンダ市がそれぞれ現れます。現代日本語の公的資料では、都市名はカタカナのタンバクンダで安定しています。
国立国会図書館サーチの公開APIでも、タンバクンダを含む日本語資料はJICA報告書や研究論文を中心に複数確認できます。検索結果の題名は「タンバクンダ」または原綴りのTambacoundaで、都市を指す日本語の歴史的漢字表記は確認できませんでした。漢字候補「坦巴昆達」での検索結果は0件でした。
これは、過去のすべての日本語資料に漢字表記がないという証明ではありません。旧フランス領西アフリカの地理書、鉄道資料、地図の画像本文などには、全文検索できない範囲が残ります。そのため、歴史表記は未収録とし、日本語原典の調査を継続します。
中国語圏の「坦巴昆达」
世界気象機関の世界気象情報サービス中国語版は、セネガルの都市ページに坦巴昆达を掲げています。この中国語版は中国気象局中央気象台が制作・維持しており、都市を選ぶ画面の地名として四字形を直接使っています。
中国外交部のセネガル安全情報にも、緊急連絡先として「坦巴昆达警察局」とあります。警察署という都市施設を伴うため、州の一覧から文字列を切り出しただけの用例ではありません。
一方、中国商務部の駐セネガル共和国大使館経済商務処は、農業産業の東部拠点を「坦巴昆达、凯杜古」と記しています。この文脈は州・地域を指すため、都市名の直接証拠には使いません。同じ四字が都市と州の双方に用いられることを示す補助資料として扱います。
簡体字の「达」を日本で一般に用いる「達」へ直した坦巴昆達は、四字でTambacoundaの四つの音節を順に写す形です。ただし、確認した資料は初出や制定者を示していません。中国語圏の地名標準化機関が最初に定めた時期も未確認です。
州都であり、国の首都ではない
セネガル国家統計・人口経済分析庁は、タンバクンダ州の州都をタンバクンダ市としています。セネガル軍の公式資料も、同市を州と同名の州都と記し、国道1号、6号、7号が接続する道路結節点だと説明しています。
一方、セネガル共和国の首都はダカールです。公式サイトの「首都」表示は国家首都かどうかを示すため、タンバクンダは首都ではないと登録します。紹介文では行政上の役割を落とさないよう、タンバクンダ州の州都と明記します。
州、県、市が同名なので、資料に「タンバクンダ」とあるだけでは範囲を決められません。地名表記の検討でも人口の採用でも、都市を示す語や行政単位を確認する必要があります。
道路と鉄道がつくった結節点
タンバクンダは、ダカールから内陸へ向かう鉄道と道路の先にあります。セネガル軍の資料は、国道1号、6号、7号が接続し、地域の主要な鉄道駅を置く都市だと説明しています。
セネガル南部ジガンショール大学の研究は、現在の市街地が旧集落タンバ・ソセの北西側に形成され、鉄道労働者の宿営地と駅を中心に成長した経緯をまとめています。駅は1915年2月17日に開業し、町は1920年に行政中心となり、1952年にコミューンへ移行しました。
鉄道が地名そのものを作ったと単純化することはできません。タンバの名を持つ先行集落があり、その近くに鉄道駅と新しい市街地が発達したからです。古い集落の記憶と植民地期の交通網が、現在の都市へ重なっています。
コミューン人口は14万9071人
セネガル国家統計・人口経済分析庁の『人口推計 2023―2073』は、2023年国勢調査を基準に、州、都市部・農村部、県、郡、コミューンを分けて人口を掲げています。
タンバクンダのコミューン行は、男性7万5735人、女性7万3336人、合計、
14万9071人
です。
同じ表のタンバクンダ県42万7419人、タンバクンダ州98万7154人とは別の値です。公式サイトには都市の単位を揃えるため、コミューン人口だけを登録します。
国連地名専門家グループの世界地名データベースは、セネガルの国土整備・地図機関を座標源として、タンバクンダの代表点を北緯13.76711606度、西経13.66988642度と掲げています。小数第六位へ丸めた北緯13.767116度、西経13.669886度を地図に使います。
この値は都市を地図上に示す代表点です。コミューン境界の重心や市域の形を示すものではありません。
「タンバのところ」という伝承
タンバクンダの名については、Tamba Walyとcoundaを結びつける説明があります。
セネガルの研究機関で公開された学位論文は、Tamba Walyをタンバ・ソセ村の首長とし、coundaはバンバラ語で「誰かのところ」を意味すると説明しています。つまり、Tambacoundaを「タンバのところ」に結びつける伝承です。
別の大学研究も、タンバという狩人と地名を結びつけています。ただし、資料によってTamba Walyを首長、狩人、創設者のどれとして語るかが揺れます。さらに、旧集落の別名をWassulucoundaとする伝承もあります。
Tamba Walyは地名の由来に現れる人物ですが、現在の都市名を公的に制定した人物、または文字列を最初に考案した人物だと確認できたわけではありません。したがって、公式サイトでは命名者として扱わず、由来に登場する人物として本文に残します。
漢字形の命名者は未確認
漢字形坦巴昆达について、最初に四字を選んだ人物と時期は確認できませんでした。
世界気象情報サービス、中国外交部、中国商務部の掲載担当者や翻訳者を、そのまま考案者とみなすことはできません。複数の公的資料で用例を確認できても、表記の成立過程とは別の問題です。
そのため、漢字表記の命名者は未確認とします。後続調査では、中国語の外国地名辞典、地名委員会資料、古い報道資料を遡る必要があります。
二字・三文字案と四字形を比べる
坦巴昆達
中国語圏の公的資料で都市への直接用例を確認できる四字形です。タン・バ・クン・ダの対応を保ち、州名との照合も容易です。
坦昆達
三字にできますが、「巴」を落とすためタンバクンダの「バ」が消えます。この都市を坦昆達とする直接用例も確認できません。
坦巴達
これも三字ですが、「昆」を落とすため「クン」の対応が消えます。確認した公的資料の用字ではありません。
都市篇は二字・三字を主流とします。しかし、字数だけを合わせるために既存形の一字を削ると、史料上の用例と読みの手掛かりを同時に失います。今回は例外として、直接用例のある四字の坦巴昆達を採ります。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、四字の坦巴昆達を採ります。
根拠は、世界気象情報サービス中国語版と中国外交部の資料が、都市または都市施設に坦巴昆达を用いていることです。中国語圏の既存形を保ち、「达」だけを日本で一般に用いる「達」へ直します。
制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「坦巴昆达」という文字列を本稿が初めて作った、という意味ではありません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
タンバクンダ
所属国
セネガル
中国語圏で確認した都市名
坦巴昆达
暫定制定都市名
坦巴昆達――創
制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査
採らなかった表記と未解決点
坦昆達と坦巴達は三字に収まりますが、都市名としての直接用例がなく、原音の一部も落ちるため採りません。二字への短縮は対応する音をさらに失うため、制定候補にしません。
未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、Tambacoundaの語源伝承に登場するTamba Walyの歴史的位置づけ、現在の都市名を定めた人物と時期、漢字形「坦巴昆达」の初出と考案者、中国語圏の地名標準化資料における位置づけです。
人口は2023年国勢調査を基準とするコミューン行です。州・県人口とは区別します。座標は都市代表点であり、行政境界の中心点ではありません。
参考資料
- JICA海外協力隊「タンバクンダ市保健センター」2019年度秋要望調査票
- 世界気象機関 世界気象情報サービス中国語版「坦巴昆达」
- 中華人民共和国外交部「セネガル・安全防范」
- 中華人民共和国商務部駐セネガル共和国大使館経済商務処「農業センター:セネガル工業化の重要なてこ」2025年
- 国連地名専門家グループ 世界地名データベース「Tambacounda」
- セネガル国家統計・人口経済分析庁『人口推計 2023―2073』
- セネガル国家統計・人口経済分析庁『タンバクンダ地域社会経済報告 2022―2023』
- セネガル国軍『Armée-Nation』第58号
- Dame Sall『タンバクンダ市における飲料水アクセス』ジガンショール大学、2023年
- Mouhamadou Moustapha Diop『タンバクンダ地域における人工授精事業の評価』EISMV、2013年
- 外務省「セネガル共和国基礎データ」
- 国立国会図書館サーチ「タンバクンダ」検索結果
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第四十号
次は、ケドゥグです。
タンバクンダから国道7号を南東へ進み、金鉱地域とニオコロ・コバ国立公園への入口に用いられる漢字表記を調べます。
