万国漢字志

都市篇 · モロッコ

万国漢字志 都市篇 第八号|タンジェ――三字「丹吉爾」は日本語史料か――

タンジェは、地中海と大西洋が出会う地点に位置するモロッコ北部の港湾都市である。

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三字「丹吉爾」は日本語史料か

都市篇第八号は、モロッコのタンジェです。

タンジェ市の公式史は、この都市を地中海と大西洋が出会う地点に位置する都市として紹介しています。中華人民共和国外交部の領事サービス網も、モロッコ北部の港湾都市として地理と港の役割を説明しています。

中国語圏の公的資料には、三字の丹吉尔/丹吉爾が現れます。しかし、直接用例があることと、それが日本語の歴史表記であることは別です。本稿では、現在の日本語、中国大陸、台湾、万国漢字志による採用を分けて確認します。


現代日本語では「タンジェ」

日本国外務省の海外安全情報は、現在の日本語都市名としてタンジェを用いています。また、外務省「モロッコ王国基礎データ」が示す首都はラバトであり、タンジェは現在の首都ではありません。

国立国会図書館の書誌には、1993年刊行の『タンジール、海のざわめき』があります。ここでは長音を含むタンジールというカタカナ表記を確認できますが、漢字表記の用例ではありません。

今回確認した資料の範囲では、日本語におけるタンジェの歴史的な漢字表記は未確認です。未確認は不存在を意味しません。近代の地理書、新聞、地図、旅行記などには、引き続き調査の余地があります。

このため、日本語の歴史的漢字表記は未確認とします。


中国大陸では「丹吉尔」

中華人民共和国外交部の領事サービス網は、都市紹介の見出しを「五、丹吉尔 Tanger」としています。ここで確認できる現行表記は、簡体字三字の丹吉尔です。

同じ資料は、タンジェをジブラルタル海峡に臨む港湾都市として説明しています。この地理説明は都市の位置と役割を知る根拠になりますが、「丹吉尔」を日本語の歴史表記とみなす根拠にはなりません。


台湾では「丹吉爾」と「坦吉爾」

台湾外交部のモロッコ紹介は、歴史を述べる箇所で繁体字三字の丹吉爾を用いています。中国大陸の「丹吉尔」とは、末字の「尔/爾」が簡体字と繁体字の関係にあり、字体差を除けば同じ三字です。

一方、台湾の経済部国際貿易署による投資環境案内には、坦吉爾と丹吉爾の両方が現れます。一つの台湾政府資料の中でも表記が一様ではないため、「台湾では常に丹吉爾」と一般化することはできません。

「坦吉爾」も現行中国語圏で直接確認できる三字形です。ただし、本稿では、中国大陸の公的資料が簡体字の「丹吉尔」を用い、台湾外交部も繁体字の「丹吉爾」を用いることを重く見て、採用形を丹吉爾とします。


万国漢字志への取り込み

丹吉爾は、資料にない字を組み合わせて作った形ではありません。中国大陸と台湾の公的資料で直接確認できる、現行中国語の三字表記です。

しかし、今回確認した資料の範囲では、日本語史料における「丹吉爾」の使用は未確認です。未確認は不存在を意味しませんが、現時点でこれを日本語の歴史表記として史に分類することはできません。

万国漢字志が現行中国語の表記を日本語の都市索引へ新たに取り込むため、制定区分は創とします。この創は三字の文字列そのものを本稿が新造したという意味ではなく、本プロジェクトによる採用の性格を示します。採用状態は暫定であり、日本語原典の調査を継続します。


海峡の都市と名称の来歴

タンジェ市の公式史は、この土地を地中海と大西洋の接点に位置し、複数の文明の往来を受けた都市としてたどっています。同史によれば、タンジェは1923年に国際管理区域となり、1956年にモロッコの都市として復帰しました。

『イスラーム百科事典』のタンジェ項目は、アラビア語のTandjaをローマ時代のTingisがアラビア語化された形とし、その基層はおそらくベルベル語だと説明しています。ただし、もとの語の正確な意味は不確かです。

したがって、本稿では語義を断定せず、特定の人物を都市名や漢字表記の命名者ともみなしません。由来についての伝承や推測を、確認済みの語源として扱うこともしません。


人口と行政範囲

GeoNamesのID 2530335 が示す都市座標は、北緯35.76727度、西経5.79975度です。

モロッコ高等計画委員会が公表した2024年国勢調査の法定人口では、基準日である2024年9月1日現在、タンジェ・コミューンの人口は127万5428人です。都市一覧には、自治体に当たるコミューンの値を採用しています。

同じ資料では、タンジェ=アシラー県は149万4413人、地方は403万222人です。コミューン、県、地方はそれぞれ範囲が異なるため、三つの数値を一つの「タンジェ人口」として混ぜません。


三字形の比較と二字形を作らない理由

丹吉爾

三文字です。中国大陸の丹吉尔と台湾外交部の丹吉爾は、字体差を除いて一致します。双方の公的資料から対応を追跡できるため、万国漢字志の暫定制定都市名に採ります。

坦吉爾

三文字です。台湾の経済部国際貿易署の資料で直接確認できますが、同じ資料には「丹吉爾」も現れます。台湾政府資料内の変異として記録し、台湾外交部と中国大陸の表記にも対応する「丹吉爾」を優先します。

二字形は設けない

今回確認した資料の範囲では、タンジェを表す二字形の直接用例は未確認です。未確認は不存在を意味しませんが、三字形を機械的に切り詰めた二字形を作らず、候補にも掲げません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

タンジェ

所属国

モロッコ

中国大陸表記

丹吉尔

台湾で確認した表記

丹吉爾/坦吉爾

暫定制定都市名

丹吉爾――創

制定状態

暫定制定・原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

坦吉爾は直接用例のある表記ですが、同じ台湾政府資料に「丹吉爾」も見えます。本稿では、中国大陸の簡体字形と台湾外交部の繁体字形が対応する「丹吉爾」を採り、「坦吉爾」は表記の変異として残します。

二字形は、直接用例を確認できないため作りません。短さだけを理由に、資料にない候補を置くことは避けます。

未解決点は、日本語資料における歴史的な漢字表記と、中国語三字形の初出です。現在の公的用例は確認できますが、誰がいつ「丹吉尔/丹吉爾」または「坦吉爾」を定めたかは確認できません。都市名の基層についても、ベルベル語である可能性は示されるものの、正確な語義は確定していません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第九号

次は、テトゥアンです。

日本語の現行表記、中国語圏の現行表記、歴史的な表記の証拠を分け、漢字形をあらかじめ定めずに調査します。