四字を削らず、別系統の三字を探す
都市篇第二十四号は、モロッコ南西部の大西洋岸にある港町タルファヤです。
中国大陸の現在の公的資料では、Tarfayaを四字の塔尔法亚と記します。一方、台湾で1975年に発表された国際問題研究には、同じ地名を三字の塔法亞とする直接用例があります。
都市篇では二字・三字を主流とします。ただし、長い表記から都合よく字を落とすことはしません。今回は、四字形を機械的に縮めるのではなく、資料に独立して確認できる三字形を採ります。
日本で一般に用いる字体へ直した塔法亜を、暫定制定都市名とします。
日本語では「タルファヤ」
JICAのモロッコ調査報告書は、風力発電事業の所在地をタルファヤと記しています。小学館『デジタル大辞泉』と『日本大百科全書』も、モロッコ南西部の港町をタルファヤとして立項しています。
現在の日本語都市名は、このカタカナ形で安定していると判断できます。本稿でもタルファヤを用います。
今回確認できた日本語資料の範囲では、タルファヤを指す歴史的な漢字表記は未確認です。ただし、これは表記が存在しなかったことを意味しません。近代の地理書、新聞、地図、旅行記などには、なお調査の余地があります。
モロッコの首都はラバトです。タルファヤはタルファヤ県の中心都市ですが、国の首都ではありません。
台湾資料にある「塔法亞」
台湾の国立政治大学が公開する雑誌『問題與研究』第15巻第2号には、石樂三「對撒哈拉問題之分析」が収録されています。1975年11月10日発行の論文で、当時の「平和進軍」に参加する人々がモロッコ南部の塔法亞へ到着した、と記されています。
論文の年代と文脈から、この塔法亞はTarfayaを指します。都市へ直接対応する、三字の繁体字表記です。
日本の標準字体では、末字の亞を亜とします。したがって本稿へ取り込む形は、三字の塔法亜です。
塔法亞の一字を削ったり、別の字へ置き換えたりしたのではありません。確認済みの三字形に、日本語で通常行う字体整理だけを加えています。
現在の中国大陸では「塔尔法亚」
中国商務部の在モロッコ王国大使館経済商務処は、2026年の記事でTarfayaを塔尔法亚と記しています。TarfayaとTan-Tanの間にある鉱区を説明する箇所で、ラテン文字名も併記されているため対応は明確です。
この四字形では、尔が原名の音を写す一字として入ります。現在の中国大陸で使われる有力な形であり、誤記や冗長表記として退けるものではありません。
本稿が三字を採るのは、四字形から尔を削る判断をしたからではなく、台湾資料に塔法亞という別系統の先行用例があるからです。二つの形は出典と言語圏を分けて記録します。
「創」が意味するもの
塔法亞という文字列そのものは、万国漢字志の造語ではありません。1975年の台湾資料に先行用例があります。
それでも制定区分を創とするのは、日本語史料に定着した既存漢字形を継承するのではなく、中国語圏の既存形を現代日本語の都市索引へ暫定的に取り込み、字体を塔法亜へ整えるためです。
本稿の創は、「世界で初めて三字を作った」という意味ではありません。異なる言語圏の用例を根拠に、日本語側で新たに採用する区分です。
海上の交易所カサマール
モロッコ高等計画委員会の地方モノグラフは、タルファヤ沖に残るカサマールを、英国商人マッケンジーが1880年ごろに建てた交易所と説明しています。海上に建つ施設は、のちに灯台とともに航海の目印にもなりました。
ここで確認できるのは、交易所の建設者と用途です。マッケンジーがTarfayaという現在名を造語したという資料ではありません。建設者を都市名の命名者として登録することはできません。
高等計画委員会の資料は、タルファヤがキャップ・ジュビーの名でも知られたと説明しています。現在名、岬に由来する呼称、海上交易所名は、それぞれ対象と時期を確かめながら扱います。
航空郵便とサン=テグジュペリ
同じ高等計画委員会資料は、キャップ・ジュビーとも呼ばれたタルファヤが航空郵便史の重要な寄港地であり、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが1927年にここで中継基地長を務めたと記しています。
当時の航空郵便は、ヨーロッパからタルファヤ、セネガルのサンルイを経て、南米へ向かう路線を結びました。単発機や双発機が大西洋岸の拠点をたどった時代です。
1987年には、サン=テグジュペリを記念する碑が建てられました。現在の町が彼の滞在地として紹介されるのは、この航空郵便の実務と記憶によります。
ただし、彼は都市名や塔法亜の命名者ではありません。著名な関係人物を、根拠なく命名者とみなすことはしません。
名称の由来と命名者は未確定
今回確認した公的資料と辞書では、Tarfayaという名称の語源を確定できませんでした。特定の言語の語へ似ていることや、土地の植生・地形から推測して説明することは避けます。
現在名を最初に用いた人物も確認できません。カサマールを建てたマッケンジー、航空郵便基地に勤務したサン=テグジュペリ、植民地行政の関係者のいずれも、確認できた範囲ではTarfayaの命名者ではありません。
塔法亞を最初に選んだ人物も不明です。論文の著者は用例の記録者であって、表記の創案者と断定できません。都市名と漢字表記の命名者は、いずれも未確定とします。
人口と位置
モロッコ高等計画委員会が公表した2024年国勢調査の全国法定人口表では、Commune de Tarfayaの人口は1万1,030人です。
内訳はモロッコ人1万1,026人、外国人4人で、世帯数は2,722世帯です。同じ表のタルファヤ県全体は1万6,228人であり、都市一覧には県人口ではなく自治体人口を採ります。法定人口の基準日は2024年9月1日です。
GeoNamesのTarfaya(ID 2529923)が示す都市地点は、北緯27.939204度、西経12.926042度です。県全体や風力発電所の座標ではなく、この都市地点を公式サイトの地図表示に使います。
三つの表記を分ける
塔法亜
台湾資料の三字形塔法亞を、日本の標準字体へ直した形です。
都市篇の暫定制定都市名に採ります。
塔尔法亚
現在の中国大陸の公的資料に見られる四字形です。
有力な現行表記として記録しますが、三字形と混成しません。
タルファヤ
JICAと日本語辞書に見られる現在のカタカナ形です。
現代日本語都市名として保持し、漢字形と置き換えません。
万国漢字志への取り込み
暫定制定都市名には、三字の塔法亜を採ります。
根拠は、1975年の台湾資料がTarfayaへ塔法亞を直接使っていることです。中国大陸の現在形塔尔法亚から一字を機械的に削った案ではありません。
繁体字の亞だけを日本の標準字体亜へ直し、残る二字は資料どおりとします。日本語の歴史的漢字表記や、三字形のさらに古い用例、漢字を選んだ人物が判明した場合は再検討します。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
タルファヤ
所属国
モロッコ
台湾資料で確認した漢字形
塔法亞
暫定制定都市名
塔法亜――創
制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査
採らなかった表記と未解決点
現在の中国大陸の四字形塔尔法亚は、資料に即した現行表記として残します。二字に縮めた案や、意味から新たに作った案は採りません。
未解決点は、日本語史料における歴史的漢字表記、Tarfayaという名称の語源と最初の使用者、塔法亞の選字者、三字形の1975年以前の用例です。
人口はタルファヤ市、タルファヤ県、周辺の風力発電所を分けました。公式サイトの索引と地図はタルファヤ市に限定します。
参考資料
- JICA『モロッコ王国 民間セクター開発に係る情報収集・確認調査 最終報告書』
- 小学館『デジタル大辞泉』・『日本大百科全書』「タルファヤ」
- 石樂三「對撒哈拉問題之分析」『問題與研究』第15巻第2号(1975年)
- 中国商務部・駐モロッコ王国大使館経済商務処「加拿大企业获批摩洛哥TitanBeach钛矿首个采矿许可」
- モロッコ高等計画委員会『Monographie de la région Laâyoune Boujdour Sakia El Hamra』
- モロッコ高等計画委員会「la stèle de Saint Exupéry à Tarfaya」
- モロッコ高等計画委員会『Population légale du Royaume du Maroc selon les résultats du RGPH 2024』
- GeoNames「Tarfaya」
- 外務省「モロッコ王国基礎データ」
- 国立国会図書館サーチ
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第二十五号
次は、ラユーンです。
タルファヤから大西洋岸をさらに南へ進み、現在名と歴史的呼称、係争地域をめぐる資料上の位置づけを慎重に分けて調べます。
