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万国漢字志 都市篇 第二十号|タルーダント――四字「塔魯丹特」を崩さない

タルーダントはモロッコ南西部のスース平原にある城壁都市で、サアード朝初期の首都として栄えた。

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二字・三字へ縮めない

都市篇第二十号は、モロッコ南西部の城壁都市タルーダントです。

都市篇では二字・三字を主流とします。しかし、文字数を先に決めて資料にない形を作ることはしません。今回確認できた直接用例は、現代中国の公的資料にある四字の塔鲁丹特と、1920年代の中国語訳名表にある塔廬丹特/塔魯丹特です。

このうち、現在も公的に使われ、字体差を除けば近代資料にも同じ字の並びが見える塔魯丹特を暫定制定都市名に採ります。簡体字の鲁だけを、日本で用いる字体の魯へ直します。

塔魯丹や魯丹特のような三字形には、タルーダントと直接対応する資料を確認できませんでした。四字であることを理由に末尾や先頭を切ると、史料に基づく表記ではなくなります。


日本語では「タルーダント」

日本国外務省のODA国別データブックには、草の根・人間の安全保障無償資金協力の案件として「タルーダント市孤児院整備・機材供与計画」が載っています。JICAの報告書にも、モロッコ国内の経路上の都市としてタルーダントが記されています。

現在の日本語都市名欄は、この公的なカタカナ表記に合わせます。

今回確認できた資料の範囲では、タルーダントを指す日本語史料上の漢字形は未確認です。中国語資料に漢字形があることは、日本語でも同じ表記が使われた証明にはなりません。

モロッコの首都はラバトです。タルーダントはタルーダント州の中心都市ですが、国の首都ではありません。


現代中国外交部の「塔鲁丹特市」

中国外交部は2025年、在モロッコ中国大使館による地域活動を「摩塔鲁丹特市社区活动中心」への機材寄贈として報じました。本文では、市長の出席にも触れながら塔鲁丹特市と繰り返し記しています。

都市、所属国、市長という文脈がそろうため、別の地名ではなく本稿のTaroudantを指す直接用例と判断できます。新華社も2023年のモロッコ地震報道で塔鲁丹特を使っています。

簡体字の鲁を日本で一般に用いる魯へ正規化すると、塔魯丹特です。これは中国語形を日本語側へ移す操作であり、日本語に定着した歴史表記の復活ではありません。


1920年代の訳名表に二つの形

何崧齡らが編纂し、上海の商務印書館から刊行された『標準漢譯外國人名地名表』は、欧文Tarudantに対して塔廬丹特を掲げ、括弧内に塔魯丹特も併記しています。

同書の凡例では、括弧内のアスタリスク付き表記を慎用訳語として区別しています。したがって、当時の第一候補は塔廬丹特であり、塔魯丹特は無条件の標準形ではありません。この資料だけを根拠に、二つを同格とは扱いません。

一方、約一世紀後の中国外交部は廬ではなく鲁を使っています。近代資料の併記形と現代の公的用例が魯の字でつながるため、本稿では塔魯丹特を採ります。

これは近代の第一候補塔廬丹特を誤りとする判断ではありません。時期と資料の性格を分け、どちらも記録します。


「創」が意味するもの

塔魯丹特という文字列そのものは、万国漢字志の造語ではありません。1920年代の訳名表と、現代中国の公的資料に先行用例があります。

それでも制定区分を創とするのは、日本語史料に定着した既存形を継承するのではなく、中国語圏の表記を日本字体へ正規化し、現代日本語の都市索引へ暫定的に取り込むためです。

つまり本稿の創は、「世界で初めて四字を作った」という意味ではありません。異なる言語圏の既存形を根拠に、日本語側で新たに採用する区分です。

二字・三字を主流とする方針は維持します。ただし今回は、短い直接用例が見つからないため四字を例外として残します。


城壁とサアード朝の都市

モロッコ政府観光局は、タルーダントをサアード朝スルタンの古い首都と紹介しています。現在の首都ではありませんが、王朝史の中で首都機能を担った時期がある都市です。

アガディール=スース・マサ地方観光評議会の公式観光サイトによれば、現存する城壁の建設は16世紀初頭のサアード朝期に始まり、18世紀初頭まで続きました。城壁は約8キロメートルに及び、130の塔、9つの稜堡、5つの歴史的門を備えるとされています。

同サイトは都市の成立をイスラム以前にさかのぼるものとします。一方、タルーダント市公式サイトは、考古学調査と文献が十分でないため、初期史には不明点が残ると説明しています。本稿では、都市の創建年を一つに固定しません。

旧市街の市場では、皮革、銀細工、敷物などの手工芸が現在も都市の特色として紹介されています。アガディールから内陸へ入り、アトラス山脈の間にある交易都市として発展してきました。


都市名と漢字の命名者は未確認

Taroudantという名称の由来には複数の通俗的説明がありますが、今回確認した公的資料は、特定の人物が都市名を造ったとはしていません。

サアード朝の君主や城壁を築いた統治者を、都市名の命名者として登録することはしません。都市の発展に関わった人物と、名称を最初に与えた人物は別だからです。

塔廬丹特/塔魯丹特の各字を最初に選んだ個人も特定できませんでした。『標準漢譯外國人名地名表』は何崧齡らの共同編纂物であり、個々の見出し語を誰が起案したかまでは示しません。都市名と漢字表記の命名者は、いずれも未確定とします。


人口と位置

モロッコ高等計画委員会が公表した2024年国勢調査の法定人口表では、Commune de Taroudanntの人口は8万3,496人です。

内訳はモロッコ人8万3,385人、外国人111人で、世帯数は2万1,821世帯です。同じ表のタルーダント州全体は85万8,162人であり、都市一覧には州人口ではなく自治体人口を採ります。法定人口の基準日は2024年9月1日です。

一方、高等計画委員会スース=マサ地域局が公開する別の自治体指標票には、タルーダントの人口として8万2,817人が記されています。二つの公式資料には679人の差があります。

本稿では、住民区分と世帯数を同じ表で確認できる全国法定人口表の8万3,496人を優先しました。差を説明する注記や改訂履歴は確認できていないため、未解決点として残します。

GeoNamesのTaroudant(ID 2529649)が示す都市地点は、北緯30.47028度、西経8.87695度です。州全体の中心ではなく、この都市地点を公式サイトの地図表示に使います。


四つの表記を分ける

塔魯丹特

現代中国外交部の塔鲁丹特を日本字体へ正規化した四字形です。

1920年代の訳名表にも併記形として現れます。暫定制定都市名に採ります。

塔廬丹特

『標準漢譯外國人名地名表』がTarudantの第一候補として掲げる近代中国語形です。

史料価値のある異表記として記録しますが、現代公的用例と連続する魯形を今回は優先します。

塔鲁丹特

中国外交部と新華社が使う現代中国大陸の簡体字形です。

日本字体へ移す際だけ鲁を魯に直します。

タルーダント

日本国外務省とJICAが使う現代日本語のカタカナ形です。

都市の現在名として保持し、漢字形と置き換えません。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の塔魯丹特を採ります。

根拠は、中国外交部が都市へ使う塔鲁丹特市という直接用例があり、近代の訳名表にも塔魯丹特が併記されていることです。簡体字一字を日本字体へ正規化する以外に、文字の追加や削除は行いません。

日本語の歴史的漢字表記、二字・三字の直接用例、都市名の命名者、漢字を選んだ人物が判明した場合は再検討します。それまでは、史料にない短縮を作らず四字形を維持します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

タルーダント

所属国

モロッコ

近代中国語資料の第一候補

塔廬丹特

現代中国大陸の公的表記

塔鲁丹特

暫定制定都市名

塔魯丹特――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

近代資料の第一候補塔廬丹特は、現代の公的用例が鲁形へ移っているため、今回の暫定制定欄には採りません。ただし、近代の標準候補として記録します。

塔魯丹、魯丹特などの二字・三字への短縮形は、タルーダントとの直接対応を確認できないため採りません。

未解決点は、日本語史料における漢字表記、二字・三字の直接用例、Taroudantという名称の確実な語源と命名者、塔廬丹特/塔魯丹特の漢字を選んだ個人です。

2024年人口についても、全国法定人口表の8万3,496人と地域局の自治体指標票の8万2,817人が一致しません。公式サイトには法定人口表を採用し、差は継続確認とします。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二十一号

次は、ティズニットです。

スース平原からさらに南へ進み、城壁と銀細工で知られる都市ティズニットの二字・三字形、名称史、史料上の表記を調べます。