「科」と「戈」の間にあるもの
UNESCOの遺跡紹介を中国語で読むと、「塔拉科现称塔拉戈纳」とあります。古代の Tarraco と現在の Tarragona を、一つの文の中で呼び分けています。「科」と「戈」は似た音の当て字ですが、ここでは対応させる名前も違います。UNESCO「Archaeological Ensemble of Tarraco」
古代の都市を紹介する漢字名を、そのまま現代の自治体名へ移してよいのか。タラゴナの稿では、この小さな違いから考えます。
歴史表記
市の歴史博物館の解説は、プリニウスの言葉として「Tarraco Escipionum opus」を掲げます。続いて、紀元前218年のローマ軍到来と、イベリア人の集落に近い場所に置かれた軍事拠点を説明しています。読めたのは、現在の市のWeb解説に引用されたラテン語です。プリニウス作品の古写本や校訂本文を直接確認したわけではありません。タラゴナ市歴史博物館「La Tàrraco romana」
同じ解説は、共和政期の都市について、高所の軍営と集落・港周辺の居住域という二つの核を持っていた可能性を記します。可能性としての復元を確定した都市平面図にせず、古代の都市の範囲を現在の municipio 全域と同じものにも扱いません。
UNESCOの英語紹介は Tarraco と現代の Tarragona の対応を示します。ただし、世界遺産の連続資産は周辺地域の施設も含みます。登録された遺産の範囲と、現代の一自治体の人口範囲は別です。UNESCO、概要と構成資産の説明
日本語の歴史的漢字表記の原典は、今回確認できていません。ラテン語の古代名と、漢字地名の歴史的実例は区別します。
日本語での用例
スペイン観光公式サイトの日本語版は、見出しを「タラゴナ」、原語名を Tarragona としています。本稿もこの日本語名を採ります。公式日本語観光案内
国名は現在の所属国スペインを示すものです。古代の Hispania を現在のスペイン国やその行政区画と同じものにはせず、ローマ期の首府という説明も、現在の国家の首都とは分けます。
中国語圏その他の表記との比較
UNESCOの中国語欄の見出しは「塔拉科考古遗址」、本文では「塔拉科现称塔拉戈纳」と対応を示します。今回確認したのは、現代の国際機関の紹介文です。古代の中国語史料にその漢字があった、という意味ではありません。UNESCO、中国語紹介
現在の都市名に対応する四字「塔拉戈纳」から、最後の「纳」を省いた「塔拉戈」を本誌の案とします。残した三字に字形変更は加えませんが、省略は本誌が行うので区分は「改」です。原文を引用するときは簡体字の「纳」を保持します。比較案で末尾の字を使う場合には、日本語で用いる「納」を選びます。
二文字・三文字案の比較
塔拉戈
現代名の音写の前半三字を残す案です。末尾のナを失うため、この三字だけでタラゴナ全体の音を写せません。日本語の通常の音読みでもトウ・ラ・カなどとなり、現地名を復元できるわけではありません。カナと原綴りを添えます。
塔戈
「拉」「纳」を省く二字の調整案です。見た目は短くなりますが、音のつながりを示す材料がさらに減ります。この二字の実際の都市略称を確認したものではありません。
塔戈納
「拉」を省き、「纳」を「納」に替える三字案です。末尾を残せる代わりに中間のラが消えます。通常の日本語音読みでタラゴナとは読めず、これも既存用例そのままの「既」ではありません。
塔拉科
三字で収まり、UNESCOの現代文にも直接用例があります。しかし同ページはこの形を古代名 Tarraco に対応させています。本稿では現代の自治体名に対応する「塔拉戈纳」を基準とし、古代名の音写へ無条件には置き換えません。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
タラゴナ(Tarragona)
所属国
スペイン
暫定制定都市名
塔拉戈――改
制定状態
暫定制定・原典継続調査
INE年次人口センサス表68065による2025年1月1日の通常居住者人口は143,260人。自治体コード43148の municipio 全域の値です。古代都市や世界遺産登録地だけの人口でも、同名の県全域でも、周辺自治体を合算した都市圏でもありません。INE表68065
使用したのは2026年11月7日保存の2025年版です。公表日は2025年12月2日、対応PXの作成日表示は2026年4月30日。保存CSVのSHA256は 9e37188faa63aa86e7a8648469834beaa2e728e5338e3364ef1ce4685178d419、該当行は物理97622行です。
国、自治体コード、現代名と日本語名の対応を保持します。古代名 Tarraco との対応が公的資料にあっても、古代から現市域まで同じ境界だったという認定はしません。代表点は選定資料に保存されたGeoNamesの位置を継承し、自治体境界ポリゴンの版は独立には確認していません。
採らなかった表記と未解決点
「塔拉戈纳」は直接確認した現代用例として残します。「塔拉戈」の三字でこの自治体を呼ぶ同一形の直接用例、日本語の伝統的漢字形、漢字表記の初出・命名者は未確認です。
古代については、市の解説が引くプリニウスの文言と原文・伝本の照合が残ります。考古学的な都市の復元、現代の遺産解説、漢字音写の提案を一つの証拠として混ぜないようにします。
参考資料
- タラゴナ市歴史博物館「La Tàrraco romana」。冒頭のラテン語引用と共和政都市の説明。成立・更新年月不記載の現代解説。古写本・校訂本文は未見。
- UNESCO「Archaeological Ensemble of Tarraco」。英語・中国語紹介と連続資産の説明。登録年は2000年で、現在の紹介文の成立年とは区別。日本語欄の訳語は本稿の歴史根拠に採用していません。
- スペイン観光公式サイト:タラゴナ。日本語名と原語名。
- INE表68065。上記保存版、43148、2025年・男女計。
- スペイン憲法。第5条、国家の首都はマドリード。
- GeoNames:Tarragona。選定資料から継承した代表点。人口や境界の根拠ではありません。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。
次回予告|都市篇 第三百八十八号
第三百八十八号はドス・エルマーナスを取り上げます。
