港を造る前からあった名
都市篇第八十一号は、前号アクラから海岸を東へ進み、港湾都市テマを訪ねます。港の建設年代は公的資料に残っています。しかし、その年代を都市名や漢字二字が生まれた年と混同することはできません。
都市を指す二字の用例、港ができる前の集落、人口の行政区域を、別々の資料で確かめます。
日本語では「テマ」
日本国外務省は、ガーナでの道路整備を説明する資料で「テマ市」「テマ港」「テマ交差点」を使います。首都アクラから港への交通が交わるテマ交差点は、国際幹線道路の結節点です。同省が示すガーナの首都はアクラで、テマは国都ではありません。
古い日本語の用例も片仮名です。アジア経済研究所の『アジア経済』1964年8月号に載ったガーナ開発計画の紹介は、住宅整備の対象を「アクラ・テマ(Accra—Tema)」と記します。ここで確認できるのは、日本語文献における都市名「テマ」の使用であり、漢字名ではありません。
今回確認できた日本語資料では、同じガーナの都市を指す歴史的漢字表記を原典で確認できませんでした。未確認は不存在の証明ではないため、継続調査とします。
大陸の「特马」、台湾の「特馬」
中国商務部が掲載する2009年のガーナ駐在参事官の説明は、主要都市を列挙して「特马(Tema)」を第一の海港都市と記します。港湾施設の名だけでなく、都市の一覧にある用例です。中国外交部の渡航情報もテマを港口城市として扱います。
台湾の国防部が公開する『國防雜誌』2018年9月号の地名対照表には「Tema 特馬(迦納)」があります。こちらもTemaと所在国を一行で照合できる二字形です。ただし、この表を「特馬」の初出や、公的な統一訳名を制定した記録とみなすことはできません。
簡体字の「马」と繁体字の「馬」は字体が異なります。本稿の制定欄では、日本語で用いる字体の「特馬」とし、大陸資料の原文「特马」を取り違えずに残します。二つの資料は中国語圏の表記の根拠であって、日本語史料での漢字使用を証明するものではありません。
港ができる前のトルマン
テマ都市自治体の2022〜25年中期計画は、古い集落名をTormanと紹介します。同計画は、移住したガ系の人々が植えたヒョウタンに結び付け、「ヒョウタンの町」という意味を伝えています。これは自治体が記録する土地の伝承です。
同じ計画によれば、伝統的な住民は港の建設に伴って1961年に現在のTema Manheanへ移りました。港湾公社の沿革では、テマ港の建設は1954年に始まり、船の定期的な往来は1962年の供用開始後とされています。したがって、港の建設・供用開始は、港以前の集落が存在しなかった証拠にはなりません。
港湾公社は建設にSir William Halcrowとその共同事業者が関わったと記します。しかし、工事に関わった人を「Tema」あるいは「特馬」の命名者にする資料は確認できませんでした。都市名の変化を決めた個人、漢字二字を選んだ個人は、ともに未確定です。
本初子午線と都市の一点
テマ都市自治体の2025年予算書は、テマをアクラの東約30キロにある沿岸都市とし、経度0度の本初子午線が自治体の区域を通ると説明します。これは区域についての記述です。
地図の代表点にはGeoNamesのTema(ID 2294700)の北緯5.6698度、西経0.01657度を採ります。この一点は本初子午線より西にあり、自治体全域の境界や中心を示しません。「子午線が通る区域」と「地図に置く代表点」を同一視しないための区別です。
17万7,924人のテマ
ガーナ財務省が公開するテマ都市自治体の2025年予算書は、2021年国勢調査の人口を17万7,924人と記します。国勢調査の基準夜は2021年6月27日で、その夜の在域人口を数える方式です。
この値は現在のTema Metropolitan Assemblyの行政区域についての値で、テマ西部の別自治体Tema Westやグレーターアクラ州全体の人口ではありません。自治体計画は区域内のTema Centralを6万6,191人、Tema Eastを11万1,733人とし、合計も17万7,924人です。公式サイトの都市一覧には、この行政区域の2021年値を置きます。
港には区域外から働きに来る人もいますが、予算書にある日々の流入者数を国勢調査人口に足しません。都市のにぎわいと、人口欄が示す集計単位は別です。
二字を採り、歴史用例とは呼ばない
都市篇では二字・三字を標準に比較します。テマには対象都市を明示した二字の「特马」と「特馬」があり、今回は根拠のない短縮形を新造する必要がありません。
万国漢字志の暫定制定都市名には、台湾の公的刊行物にも見える字体「特馬」を採ります。制定区分は「創」。二字の文字列を本誌が発明したという意味ではなく、中国語圏にある表記を、日本語の都市索引へ新たに選定するという判断です。日本語原典での使用が確認できれば、この区分を見直します。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
テマ
所属国
ガーナ
中国語圏の資料で確認した表記
特马(中国大陸)・特馬(台湾)
暫定制定都市名
特馬――創
制定状態
暫定制定・日本語の歴史的漢字用例と選字者は継続調査
採らなかった表記と未解決点
大陸資料の「特马」は誤りとして捨てるのではなく、原文の字体として記録します。古い集落名Tormanを漢字二字の起源とみなしたり、港の建設者を漢字の命名者とみなしたりもしません。
未解決なのは、日本語の地図・新聞・港湾資料における漢字使用の有無、「特马/特馬」の初出と選字過程、都市名TormanからTemaへの変化を示す原典です。今回の二字は、その調査を続けるための暫定案です。
参考資料
- 外務省「ガーナ共和国基礎データ」、首都アクラ
- 外務省「第二次テマ交差点改良計画」、テマ市・テマ港
- アジア経済研究所『アジア経済』1964年8月号掲載「ガーナ経済開発7ヵ年計画」
- 中国商務部「駐在国関連状況」、2009年の主要都市一覧
- 中国外交部「加纳・交通出行」、港口城市特马
- 台湾国防部公開『國防雜誌』第33巻第3期、2018年9月、地名対照表
- テマ都市自治体「Medium Term Development Plan 2022–2025」、人口と伝統的集落
- ガーナ財務省「Tema Metropolitan Assembly, Composite Budget 2025」、第4ページ
- ガーナ港湾公社「Our History and Future」、テマ港建設史
- ガーナ統計局「2021 Population and Housing Census」、基準夜の説明
- GeoNames「Tema」、都市代表点
- JICA「ガーナ国際回廊改善計画」、テマ港
- ケタ市自治体「About Us」、次号の対象都市
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。
都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。
次回予告|都市篇 第八十二号
次は、海岸をさらに東へ進み、ケタ潟とギニア湾に面するケタを調べます。
