万国漢字志

都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第三十三号|ティエス――二字の「捷斯」は都市を指すか

ティエスはセネガル西部の鉄道都市。ダカールとサン=ルイを結ぶ路線を足場に発展し、現在はティエス州と同名県の行政中心を担う。2023年の市人口は三コミューン合計39万1253人。

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「捷斯」は都市名か、州名か

都市篇第三十三号は、セネガル西部の鉄道都市ティエスです。

中華人民共和国外交部は、この都市を二字で、

捷斯

と記しています。同じ記事に「捷斯大区区长」と「捷斯市长」が並び、州に当たる大区と市を明確に分けています。中国商務部の2025年版国別指南も、「捷斯は首都ダカールに近い重要都市」と説明します。

同じThièsという名が市、県、州に使われるため、漢字だけを抜き出すと対象を誤りかねません。今回は、捷斯市という直接用例と、国連文書にある**捷斯(塞内加尔)**を根拠に、二字の核が都市にも使われることを確かめます。

一方、日本語の古い資料で確認できたのは、漢字ではなくチエスというカタカナ表記です。したがって「捷斯」を日本語の旧表記とはせず、中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ取り込む案として扱います。


中国外交部と国連の「捷斯」

中国外交部が2018年に掲載した現地行事の記事は、駐セネガル中国大使が捷斯市を訪れたと記します。出席者には捷斯大区区长と捷斯市长が別々に挙げられています。

ここでの「捷斯」は、州だけに用いられた表記ではありません。市長との対応によって、対象がティエス市であることを直接確認できます。

中国商務部の『対外投資合作国別(地区)指南 セネガル(2025年版)』も、ダカール、サン=ルイ、トゥーバなどとともに捷斯を重要都市として紹介しています。

国連人権理事会の中国語文書は、人権都市の例を列挙する脚注で**捷斯(塞内加尔)**と記します。2014年と2015年の二つの文書に同じ形があり、国名を添えて対象都市を特定しています。

二字の「捷斯」は、記事タイトルから音を当てて作った案ではありません。外交部、商務部、国連という異なる公的資料に、ティエス市を指す形として直接現れます。


1926年の日本語資料は「チエス」

日本語資料では、1926年刊の西田卯八『世界経済地理講話』に、ローマ字を添えた、

チエス Thies

という表記があります。セネガルの鉄道を説明する文脈で、ダカールからこの都市へ至る経路を記した箇所です。

1931年刊の『世界政治経済地理統計』にも、鉄道表の「チエスーニヂエル間」という記載があります。さらに、1921年の外務省通商局『通商公報』の全文検索には「チエスカイエス鐵道」が見えます。

これらは、現在の「ティエス」と母音表記が異なる歴史的カタカナ用例です。しかし、「捷斯」「第傑」「捷士」を日本語の都市名として用いた原文は、今回確認できませんでした。

カタカナ用例があることと、漢字用例があることは別です。そのため、日本語の歴史表記としては登録せず、漢字形の調査を継続します。


台湾資料の「第傑」と「捷士」

台湾の中華民国外交部『九十四年外交年鑑』は、2005年のセネガルでの行事を、

第傑市(Thies)

と記しています。ローマ字と「市」を伴うため、ティエス市を指す別の二字形として確認できます。

同じ台湾外交部の条約資料には捷士及達卡地區という形もあります。対応するフランス語はThièsとDakarのRegionsであり、こちらは都市ではなく地域を対象にした用例です。

「第傑」は市、「捷士」は地域という直接の文脈を持ちます。どちらも比較資料として残しますが、現在の中国外交部・商務部と国連文書で都市への用例が重なる捷斯を主表記に選びます。


鉄道が育てた都市

地理学者ジョルジュ・サヴォネの1956年の都市研究は、ティエスがセレール=ヌーンの古い集落から発展した経過をたどっています。1863年にフランスの軍事拠点が置かれ、1885年にダカール・サン=ルイ鉄道が開通すると、内陸へ向かう交通の結節点として重要性を増しました。

ティエス市は、コミューンの成立を1904年としています。1923年には鉄道修理工場が設けられ、雇用と市街地の拡大を支えました。

前号のダカールでは、港と鉄道によって行政中心が成長した歴史を扱いました。ティエスは、そのダカールからサン=ルイへ伸びる路線と、内陸へ向かう路線が交わる都市です。

鉄道都市としての役割は過去だけのものではありません。セネガル首相府が公開した2023年2月9日の閣議報告は、ダカール・ティエス・タンバクンダ線の再生と、ティエスを軸にした鉄道拠点の整備を掲げています。


市、県、州を分けて数える

ティエスという名は、都市だけでなく県と州にも使われます。セネガルの2014年政令は、ティエス東、ティエス北、ティエス西の三コミューンからティエス市を構成し、市域を三コミューンの範囲と一致させています。

国家統計・人口経済分析庁の2023年人口は、ティエス東16万6256人、ティエス北13万6138人、ティエス西8万8859人です。三つを合計した39万1253人を、本稿と公式サイトの市人口に採ります。

この合計値は、統計表に「ティエス市」として一行で印刷された数字ではありません。法令が定める三コミューンの市域に合わせ、同じ国勢調査の三数値を合計したものです。

ティエス県は87万9186人、ティエス州は246万3677人で、範囲が異なります。市人口39万1253人を、同名の県や州の人口と混同しないようにします。

国連地名専門家グループが示す都市代表点は、北緯14.793751度、西経16.930340度です。境界を示す点ではなく、地図上で都市を指す代表座標として使います。


国の首都ではない

セネガル政府の2021年政令は、ティエスをティエス州とティエス県の行政中心に定めています。一方、外務省がセネガル共和国の首都として掲げるのはダカールです。

州都・県都としての役割と、国家首都かどうかは別の区分です。公式サイトではティエスを非首都とし、紹介文で地域行政の中心であることを補います。


地名の由来と命名者

セネガル政府、国家統計・人口経済分析庁、国連地名資料からは、Thièsという名の確定した語源を確認できませんでした。

ジャック・プイエが記録した現地のヌーン語による口承は、N'Diess/Ndiessという名を、植物の一種に由来する古い呼称として伝えています。フランス側がそれをThièsと綴ったという説明です。

これは記録された口承であり、確定した語源ではありません。話に現れる古い集落の人物や、1863年以後のフランス側関係者の誰かを都市名の命名者と認定できる資料もありません。

都市の発展に関わった軍人、鉄道技術者、行政官と、地名を作った人物は分けて考えます。漢字形「捷斯」の最初の選定者も未確認のため、命名者は記載しません。


二字案を比較する

捷斯

中国外交部が「捷斯市」と記し、中国商務部と国連文書もティエスを重要都市、人権都市としてこの二字で示しています。都市への直接用例が複数あり、二文字という都市篇の標準にも収まります。

第傑

台湾外交部年鑑に「第傑市(Thies)」という直接用例があります。対象都市は明確ですが、今回確認できた公的用例は2005年の一例です。

捷士

台湾外交部の条約資料にありますが、対応する原文は地域を指します。ティエス市の主表記には採りません。

三案はいずれも二字ですが、短さだけで同列にはできません。現在の複数の公的資料で都市名として一致する捷斯を優先します。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、二字の捷斯を採ります。

根拠は、中国外交部が州と市を区別したうえで「捷斯市」を用い、中国商務部と国連文書にも都市を指す直接用例があることです。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏で実在する二字形を現代日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「捷斯」という文字列を本稿が初めて作ったという意味ではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
ティエス

所属国
セネガル

中国語圏で確認した都市名
捷斯/第傑

暫定制定都市名
捷斯――創

制定状態
暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

第傑は台湾外交部年鑑に都市の直接用例がありますが、現在の複数資料で用例が重なる捷斯を優先しました。捷士は地域を指す条約用例のため、都市の主表記には採りません。

未解決点は、日本語資料における漢字表記、ThièsまたはNdiessの語源と命名者、捷斯・第傑・捷士の各漢字形を最初に選んだ人物です。

日本語では1926年の「チエス Thies」と1931年の鉄道表を確認できました。今後は、このカタカナ用例より前の地理書、鉄道資料、外交記録に漢字形がないかを継続して調べます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第三十四号

次は、ンブールです。

ティエス州から大西洋岸へ進み、港町の漢字表記を都市・県の範囲と分けて調べます。