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万国漢字志 都市篇 第二十一号|ティズニット――四字「提茲尼特」を保つ

ティズニットはモロッコ南西部の城壁都市で、1882年にハッサン1世が周辺集落を城壁で統合して建設した。

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四字の直接用例を保つ

都市篇第二十一号は、モロッコ南西部の城壁都市ティズニットです。

国連の中国語文書と、アガディール=スース・マサ地方観光評議会の中国語サイトは、都市Tiznitを四字の提兹尼特と記しています。日本で用いる字体へ直すと提茲尼特です。

都市篇では二字・三字を主流とします。しかし、今回確認できた資料の範囲では、ティズニットに直接対応する二字形・三字形は未確認です。

提茲尼や茲尼特のように四字形を切り詰めれば、見た目は短くできます。しかし、それは資料にある都市名ではありません。文字数より直接用例を優先し、今回は提茲尼特を暫定制定都市名に採ります。


日本語では「ティズニット」

JICAのODA見える化サイトには、モロッコで実施された技術協力として「ティズニット市及び周辺コミューンにおける廃棄物管理能力向上プロジェクト」が掲載されています。

外務省の対モロッコ国別評価資料にも、地域名の並びの中にティズニットがあります。現在の日本語都市名欄は、これらの公的資料に合わせます。

小学館『デジタル大辞泉』も、モロッコ南西部の町としてティズニットを立項し、アガディールの南約80キロメートル、城壁に囲まれた旧市街と銀製品の市場を持つ町と説明しています。

日本語の旧資料には、異なるカタカナ形もあります。1983年の雑誌『Africa』にはチズニットが現れ、JICAの旧報告書にもチズニット地方局という表記があります。これは日本語における受容史を示しますが、漢字形ではありません。

今回確認できた日本語資料の範囲では、ティズニットを指す歴史的な漢字表記は未確認です。ただし、これは表記が存在しなかったことを意味しません。近代の地理書、新聞、地図、旅行記などには、なお調査の余地があります。

モロッコの首都はラバトです。ティズニットはティズニット州の中心都市ですが、国の首都ではありません。


国連文書の「提兹尼特」

国連デジタルライブラリーが公開する2008年の中国語文書には、モロッコ出身者の出生地として摩洛哥提兹尼特が記されています。

国名と出生地が同じ記録の中で対応しているため、別の地名ではなく、本稿のTiznitを指す直接用例と判断できます。

国連文書にあるのは中国簡体字の提兹尼特です。日本語側へ移す際は、簡体字の兹を日本で用いる字体の茲へ直し、提茲尼特とします。四字の追加や削除は行いません。

新華社も2018年、モロッコ南部の町を紹介する記事で摩洛哥南端小镇提兹尼特と記しています。国、都市、位置が一文にそろう、もう一つの直接用例です。


地域公式観光サイトでも四字

アガディール=スース・マサ地方観光評議会の公式観光サイトは、中国語版の見出しを「提兹尼特(Tiznit)— 一座充满奇迹的城市」としています。

本文でも、海、サハラ砂漠、山地の間にある都市を提兹尼特と記し、城壁、旧市街、銀細工を紹介しています。欧文名Tiznitが同じ見出しにあるため、漢字形と対象都市の対応が明確です。

Unicode CLDRの地域区分名一覧にも、Tiznit Provinceに対する繁体字形として提茲尼特省があります。これは州名の用例であり、都市そのものの直接用例とは分けて扱います。ただし、州名が中心都市名に由来するため、繁体字体系での四字形を確認する補助資料になります。


「創」が意味するもの

提兹尼特/提茲尼特という文字列そのものは、万国漢字志の造語ではありません。国連文書、地域公式観光サイト、Unicode CLDRに先行用例があります。

それでも制定区分を創とするのは、日本語史料に定着した既存漢字形を継承するのではなく、中国語圏の四字形を日本字体へ正規化し、現代日本語の都市索引へ暫定的に取り込むためです。

本稿の創は、「世界で初めて四字を作った」という意味ではありません。異なる言語圏の既存形を根拠に、日本語側で新たに採用する区分です。


ハッサン1世が統合した都市

ティズニット市公式サイトによれば、現在の都市は1882年、アラウィー朝のスルタン、ムーレイ・ハッサン1世のスース地方巡行を受けて建設されました。

目的は、大西洋側からのヨーロッパ勢力の進出を防ぎ、イリグに拠点を置くタゼルワルト宗教勢力の影響を抑えることでした。

ただし、1882年まで無人だった場所に都市を一から造ったわけではありません。公式サイトは、選ばれた場所がすでにアザガル・ティズニットの住民によって居住されていたと説明しています。

ハッサン1世は周辺の小集落を城壁でまとめました。城壁は高さ約8メートル、長さ約7キロメートルで、56の塔と5つの門を備え、建設には約2年を要したとされています。

地域公式観光サイトはこの都市を「銀の町」と紹介します。旧市街では銀の装身具を作る工芸が受け継がれ、現在もティズニットを代表する産業と文化になっています。


建設者と命名者を分ける

ムーレイ・ハッサン1世は、1882年に城壁都市を建設した人物として公的資料で確認できます。しかし、Tiznitという名称を造語した人物とは確認できません。

ティズニット市公式サイトは、都市の建設前から土地と平原がTiznitの名を持っていたことを示しています。したがって、都市を統合したハッサン1世を名称の命名者として登録することはしません。

名称の語源には、「籠」を意味するという説明、泉の伝説に登場する女性名に結びつける説明、水場や灌漑地に関係するという説明があります。

地理学の研究は、タシェルヒト語のzniまたはsniを水域に関係する語根として、小さな水域や水たまりを表す可能性を論じています。一方、地域の公的観光資料は、聖女ララ・ズニニアが泉を発見し、その名がTiznitになったという話を明確に伝説として紹介します。

研究上の語源説と伝説を同格の史実にはできません。今回の資料では最初の使用者まで遡れないため、名称の由来は確定せず、ララ・ズニニアを都市名の命名者とは認定しません。

提兹尼特の各字を最初に選んだ人物も確認できません。国連やUnicodeを個人の命名者とみなすこともできません。都市名と漢字表記の命名者は、いずれも未確定とします。


人口と位置

モロッコ高等計画委員会が公表した2024年国勢調査の全国法定人口表では、Commune de Tiznitの人口は8万6,595人です。

内訳はモロッコ人8万6,501人、外国人94人で、世帯数は2万3,860世帯です。同じ表のティズニット州全体は19万8,542人であり、都市一覧には州人口ではなく自治体人口を採ります。法定人口の基準日は2024年9月1日です。

一方、高等計画委員会スース=マサ地域局が公開する別の自治体指標票には、ティズニットの人口として8万5,830人が記されています。二つの公式資料には765人の差があります。

本稿では、住民区分と世帯数が同じ表で明示された全国法定人口表の8万6,595人を優先しました。差を説明する注記や改訂履歴は確認できていないため、未解決点として残します。

GeoNamesのTiznit(ID 2527089)が示す都市地点は、北緯29.69742度、西経9.73162度です。州全体の中心ではなく、この都市地点を公式サイトの地図表示に使います。


三つの表記を分ける

提茲尼特

国連文書と地域公式観光サイトの提兹尼特を、日本で用いる字体へ直した四字形です。

都市との直接対応が確認できるため、暫定制定都市名に採ります。

提兹尼特

国連文書、地域公式観光サイト、現代中国語資料が使う簡体字形です。

日本語側へ取り込むときだけ兹を茲へ直します。

ティズニット

JICA、外務省、『デジタル大辞泉』が使う現代日本語のカタカナ形です。

都市の現在名として保持し、漢字形と置き換えません。


二字・三字案の比較

今回の調査で直接確認できた漢字形は、四字の提兹尼特/提茲尼特です。

提茲尼は末尾の特を落とした三字形、茲尼特は先頭の提を落とした三字形ですが、どちらにもTiznitとの直接対応を示す資料を確認できませんでした。

提茲や尼特の二字形も同様です。短いことだけを理由に、四字の一部を都市名として独立させません。

今後、二字・三字の直接用例が見つかれば比較対象に加えます。それまでは、四字形を採る理由を本文に明記し、現在の表記を維持します。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の提茲尼特を採ります。

根拠は、国連中国語文書と地域公式観光サイトが都市へ提兹尼特を直接使い、Unicode CLDRも州名に繁体字の提茲尼特省を載せていることです。

簡体字一字を日本字体へ正規化する以外に、文字の追加や削除は行いません。日本語の歴史的漢字表記、二字・三字の直接用例、名称の確実な語源、漢字を選んだ人物が判明した場合は再検討します。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ティズニット

所属国

モロッコ

国連・地域公式観光資料で確認した中国語形

提兹尼特

Unicode CLDRの州名にある繁体字形

提茲尼特省

暫定制定都市名

提茲尼特――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

提茲尼、茲尼特、提茲、尼特は、ティズニットとの直接対応を確認できないため採りません。二字・三字を主流とする方針は、史料にない短縮を許すものではありません。

未解決点は、日本語史料における歴史的漢字表記、二字・三字の直接用例、Tiznitという名称の確実な語源と最初の使用者、提兹尼特の漢字を選んだ人物です。近代中国語訳名表の画像調査にも継続の余地があります。

ムーレイ・ハッサン1世は都市建設者として確認できますが、名称の命名者ではありません。その役割を混同せず、本文の都市史に記録します。

都市成立を1881年とする観光資料、1882年とする市公式資料、城壁着工を1883年とする研究資料があります。本稿は市公式資料に合わせて1882年とし、年の違いは継続確認とします。

2024年人口についても、全国法定人口表の8万6,595人と地域局の自治体指標票の8万5,830人が一致しません。公式サイトには法定人口表を採用し、差は継続確認とします。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二十二号

次は、ゲルミンです。

さらに南へ進み、サハラ交易の入口として発展したゲルミンの三字形、名称史、史料上の表記を調べます。