万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百七十八号|トリアー――交流先が添えた表記の断り書き――

長岡市が使うトリアーと、同市が挙げるトリーア・トリールの異形を区別する。福建省外事弁公室の特里尔から三字の特里爾を暫定案とし、読みの限界を記す。


市名を説明する前の、一つの注記

長岡市が交流先のTrierを紹介するページには、冒頭に表記についての断り書きがあります。トリールやトリーアなどの形があるものの、長岡市は交流当初からトリアーと書いている、という説明です。

同じ都市にいくつかのカタカナがあることを、交流当事者が明記しています。本稿ではそのトリアーを用い、中国語の特里尔と比べます。読みの違いを漢字で消そうとはせず、調整案の特里爾にも説明を添えます。


歴史表記

トリアーの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 古い町であることや、古代の遺跡が残ることは、日本語の漢字表記を確認した証拠にはなりません。

今回参照したのは、現代の自治体の交流案内と中国の公的な友好都市紹介です。古い地誌・地図やマルクスの日本語訳書の原本を調べたとはしません。特里爾を日本で古くから使われた形として示すことも避けます。


日本語での用例

長岡市の「ドイツ連邦共和国/トリアー市」は、2024年3月4日最終更新の表示です。Trierを明記したうえで、トリール・トリーアという異形を挙げ、自市では交流当初からトリアーと表記していると説明しています。

本誌は交流当事者自身の用例を根拠にトリアーを採ります。ただし、これを日本語全体で唯一の正しい形とするわけではありません。トリーアもこのページが認める異表記です。原綴りは同じTrierであり、別都市として数えません。

同ページが記す友好交流の合意は1995年10月12日、姉妹都市の宣言は2006年4月1日です。現在のページが説明する交流史として参照し、当時の宣言書画像や合意書原本を今回直接確認したとはしません。また、トリアーというカタカナから現地の音価や強勢を確定することもしません。


中国語圏その他の表記との比較

福建省人民政府外事弁公室の「福建国际友城“话你知”系列之德国特里尔市」は、2022年8月29日11:43掲載で、情報源を厦門市外事部門と省外事部門としています。本文の都市紹介には**特里尔市(Trier)**とあり、現地綴りとの対応を直接確認できます。

末尾には2010年11月に厦門市と友好都市関係を結んだとあります。大学名の一部だけから市名を推測したのではなく、交流相手の市そのものの用例として使います。この年を、漢字表記の成立年とすることはできません。

本誌は尔を爾へ調整し、特里爾とします。調整後の形が日本語で既に使われているか、台湾等でも同じ字を採るかは今回未確認です。確認した中国語原文は、あくまで特里尔です。


二文字・三文字案の比較

特里

特里尔から末尾を落とす、本誌の二字案です。原文の三字を二字にする理由を支える用例は未確認です。特のトク、里のリという通常の音読みでもトリアーにはならず、字を減らしても読みの問題は解けません。

都里亜

トリアーのカタカナに寄せ、都・里・亜をト・リ・アと読む本誌の三字案です。通常の字音と接点はありますが、長母音を示さず、トリーアなどの異形をそのまま説明することもできません。確認済みの特里尔から離れる操作を優先する根拠がないため採りません。

特里爾

特里尔の三字と順序を保ち、末尾の字体を調整した案です。現代の公的用例への対応を示せる点を採用理由にします。二字・三字標準の範囲内ですが、特・里・爾をトク・リ・ジと読んでもトリアーにはなりません。字数の適合と日本語の読みの自然さは別に考え、読みを添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

トリアー(異表記:トリーア、トリール)

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

特里尔

暫定制定都市名

特里爾――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

尔→爾の字体調整を伴うため「改」とします。日本語の歴史漢字として「史」に分類したものではありません。特里爾にはトリアーの読みとTrierの綴りを添えます。

人口はDestatis年次版による2025年12月31日現在105,054人。2022年国勢調査を基礎とする人口更新統計で、人口・自治体境界とも同日、2026年8月刊の版です。対象はTrier, Stadt(AGS 07211000)の自治体全体。周辺のTrier-Saarburg郡や都市圏を足した人口ではありません。


採らなかった表記と未解決点

特里と都里亜は、本誌が比較のために組んだ形です。確認した既存用例ではありません。特里爾も字体の調整は追えますが、日本語で自動的に読める形にはなっていません。

トリアー・トリーア・トリールのどれか一つだけを正解として他を消すことはしません。今回は長岡市が明示する選択を読みの根拠にし、異形の存在も残します。日本語の歴史漢字、漢字形の初出、選字者、他地域の用字は継続調査です。古代の都市範囲と現在の行政境界の完全な一致も、本稿の確認範囲ではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百七十九号

次回はザルツギッター(Salzgitter)を予定しています。人口基準の掲載順に沿って、公的な市名用例と漢字候補を調べます。