万国漢字志

都市篇 · チュニジア

万国漢字志 都市篇 第一号|チュニス――「突尼斯」は都市名だったのか――

チュニスはチュニジアの首都で、行政・政治・文化の中心都市。地中海に近い立地を持ち、世界遺産のメディナにはマグレブ初期のアラブ・イスラーム都市としての歴史が残る。

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国より先に、都市の「突尼斯」を読む

都市篇の第一号は、チュニジアの首都チュニスから始めます。

国名篇第十八号では、チュニジアの漢字表記として「突尼斯」を採りました。ただし、明治期日本語で確認できる「突尼斯」は、現在の国名チュニジアだけを指すとは限りません。

むしろカリフォルニア大学バークレー校東亜図書館の画像資料には、都市を明示する、

突尼斯[チュニス]府 郊外ヨリ眺望スル図

と、

突尼斯府下珈琲店ノ図

が残ります。国名記事から都市名を逆算したのではなく、「府」「府下」を伴う都市用例です。

さらに国立国会図書館の書誌には、表題を、

突尼斯遠征紀略

とし、その読みを、

チュニス エンセイ キリャク

とする1887年の図書があります。

これらを合わせると、三字は都市チュニスを読む日本語の歴史表記として確認できます。


歴史表記

バークレー校東亜図書館の画像資料は、「突尼斯府」「突尼斯府下」と記します。「府」と「府下」が付くため、政体名だけでなく都市とその市街を指す用例として読めます。二点のうち一方は目録上の読みも「チュニス」と明示します。ただし制作年、作者、角括弧内の読みが原資料にあるのか目録で補われたのかは、今回の調査では確定できません。

国立国会図書館が公開する『突尼斯遠征紀略』の書誌は、著者を参謀本部海軍部、出版者を参謀本部海軍部編纂課、出版年を明治20年2月、すなわち1887年としています。

書誌上のタイトルよみが「チュニス エンセイ キリャク」であるため、少なくともこの資料名の「突尼斯」は、現代日本語の「チュニス」に対応します。

国立公文書館デジタルアーカイブにも、明治期の件名として、

亜富汗斯坦地誌突尼斯紀略出版ノ件

や、

突尼斯国万国海底電信線保護条約ニ加入ス

が残ります。

ただし後者の「突尼斯国」は、都市そのものではなく、当時の政体・地域を指す表現です。同じ三字が都市、地域、国を文脈によって担っていたことを示す史料として扱い、すべてを都市用例へ数え上げることはしません。


日本語での用例

現在の日本語公用表記はカタカナの「チュニス」です。外務省のチュニジア基礎データも、首都を「チュニス」と記載しています。

一方、1887年の『突尼斯遠征紀略』は、日本語の図書名と読みが一緒に確認できる点で重要です。

漢字だけを見れば「チュニジア」と読む可能性もあります。しかし、この書誌は「チュニス」と読みを固定しています。表題の見た目から推測した読みではなく、既存書誌に記録された対応関係です。

現在の文章で「突尼斯」とだけ書けば、一般の読者にはまず通じません。そのため本稿は、現代日本語名を置き換える提案ではなく、史料を検索し、都市名の履歴をたどるための索引として三字を残します。


中国語圏その他の表記との比較

中華人民共和国外交部のチュニジア国別ページは、国名を「突尼斯共和国」、首都を「突尼斯市」としています。

中国大陸の現代表記では、国と首都がどちらも「突尼斯」を核にし、「共和国」「市」で範囲を分けています。

日本語の明治期史料でも、同じ三字が都市、地域、政体の間を行き来します。都市名から国名へ一方向に広がったとまでは断定せず、同じ「Tunis」に対応する三字が複数の範囲を担った歴史として記録します。

ただし、日本語史料と現代中国語の制度的表記は別の体系です。中国語で現役だから日本語でも現役だとはせず、日本語では「史」、中国語では現在も使われる表記として分けて記録します。


都市名の由来

チュニジア国立遺産研究所のメディナ解説は、アラブ期のチュニスが無から造られた都市ではなく、それ以前のベルベル系の都市を継いだと説明しています。

地名については、古い「Tynes」「Tunes」とベルベル語系の語根T-N-Sを結び、「立ち止まる場所」「野営地」「宿泊地」に近い意味だったとする説を紹介しています。古代史家の記録からは、紀元前4世紀には都市の存在が確認できるとも述べています。

これは有力な説明ですが、語源を一つに確定する材料ではありません。今回確認した資料では、特定の人物による造語とも確認できないため、命名者は未確定とします。


二文字・三文字案の比較

突尼斯

三文字です。「突尼斯府」「突尼斯府下」という都市用例があり、1887年の日本語書誌にも「チュニス」という読みが明示されているため、史料根拠が最も強い候補です。

「突・尼・斯」の字義を組み合わせた命名ではなく、音を受けた歴史的な当て字として扱います。

突尼

二文字に収まり、現代中国語の「突尼斯」と「突尼西亞」に共通する部分でもあります。

しかし、今回確認した日本語史料には「突尼」だけでチュニスを表す用例がありません。字数を減らすための新しい切り詰めになるので採りません。

都尼斯

先頭に都市を連想させる「都」を置く案です。しかし、既存史料の「突」を「都」に替える根拠はなく、万国漢字志による新造の比重が大きくなります。

都市篇では二文字・三文字を標準としますが、短さだけを理由に史料のある表記を捨てません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名
チュニス

所属国
チュニジア

暫定制定都市名
突尼斯――史

制定状態
暫定制定・原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

二文字案「突尼」は、確認できた日本語史料に単独用例がないため採りません。「都尼斯」も、既存表記を改めるだけの根拠がないため見送ります。

未解決点は二つあります。

第一に、「突尼斯府」の二点は都市用例ですが、その制作年、作者、収録物、目録の読みの由来は未確定です。また、明治期の「突尼斯」が都市を指すのか、地域・政体を指すのかは、資料ごとに文脈を読む必要があります。『突尼斯遠征紀略』は読みを「チュニス」と確認できますが、書名だけで本文中の全用例の指示範囲までは確定できません。

第二に、地名の語源にはベルベル語系の宿営地説がありますが、唯一の確定説としては扱えません。古い表記「Tynes」「Tunes」と現在のTunisの連続性は確認しつつ、語源の断定は避けます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第二号

次は、アルジェです。

国名篇第十九号のアルジェリアから首都へ視点を移し、「阿爾及爾」などの表記が日本語史料でどのように使われたかを確認します。