万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百六十七号|ウルム――三字の「乌尔姆」と古いHulma――

岐阜県立森林文化アカデミーのウルム市と中国総領事館の乌尔姆を確認。市発行解説のHulmaを中世原典と区別し、烏爾姆を暫定案とする。


ウルム市と書かれた視察報告

岐阜県立森林文化アカデミーのドイツ視察報告には、ウルム市という名が出てきます。射撃センターの所在地を説明する一節で、施設名にはラテン文字のULMもあります。中国総領事館の出張報告では、同じ都市を乌尔姆と記しています。

短いUlmという綴りに対して、中国語では三字。文字数だけを見れば本誌の標準に収まりますが、日本語でウルムと読めるかどうかは別の問題です。本稿では、二字への短縮案と日本語の音を意識した三字案を比べ、烏爾姆を暫定案とします。


歴史表記

ウルムの日本語の歴史的漢字表記は、現時点では原典未確認です。 市の古さと、漢字表記の古さを同じものとして扱いません。

ウルム市発行の「Die Geschichte der Stadt Ulm」は、PDF第2ページに旧形Hulmaを記し、854年7月22日の文書に結び付けています。発行表示は2004年4月です。

今回読んだのは、この市発行の解説冊子です。冊子に掲げられたラテン語の引用や古い都市図を見ても、それだけで854年の文書原本を実見したことにはなりません。Hulmaも欧文の旧形であり、日本語の漢字の歴史的用例として数えるものではありません。


日本語での用例

岐阜県立森林文化アカデミーの「MSZUが凄い‼︎ 独BW州狩猟・獣害対策視察報告(その1)」は、2017年3月27日付です。MSZUの正式名にULMを含め、その所在地をウルム市と説明します。

ここで確認するのは、公立教育機関の報告者が日本語の市名としてウルムを使っていることです。本文では施設と市の名を区別でき、施設の略称MSZUを都市の別名にする必要もありません。

本誌が添えるウルムの読みは、この日本語用例に基づきます。2017年の視察報告の表記を、解説冊子が紹介する854年へ遡らせることはできません。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐フランクフルト総領事館の「驻法兰克福总领馆赴乌尔姆、拉芬斯堡现场办公」は、見出しと本文で乌尔姆を使います。ページの表示日は2024年10月6日。本文は同年10月5–6日に行った二都市での出張業務を報告します。

大学名の一部だけを抜き出した用例ではなく、領事業務で訪れた都市の名です。URLには12月を思わせる部分がありますが、本文の行事月や画面の日付を、それに合わせて変えません。

烏爾姆は乌を烏、尔を爾へ移す本誌案です。最後の姆は保ちます。この調整後の形について、台湾など別の中国語圏で使われていることまで確認したとはしません。


二文字・三文字案の比較

烏姆

乌尔姆に対応する三字から中央の爾を省く、本誌の二字比較案です。都市名としての既存用例は今回未確認です。短くできますが、原文の一字を落とす用例上の根拠がありません。

烏のウが日本語の冒頭と重なっても、中央を省いた形からウルムが自然に読めるわけではなく、採りません。

宇留夢

日本語のウルムという音を意識した、本誌の三字創案です。宇・留・夢を並べ、カタカナに近づける狙いがあります。ただし、三字を見ただけでその読み方が一意に決まるわけではありません。ウルムという都市名に実際に使われた形も、今回未確認です。

新しく字を選び直すよりも、確認した中国語の三字へ戻れる利点を重く見て、今回は採りません。

烏爾姆

乌尔姆と一字ずつ対応し、二字の字体を移す案です。二字・三字の標準内で、原文の字順と全要素を保てることを採用理由にします。

烏のウだけを取り出しても、残る二字から日本語のルムがそのまま導けるわけではありません。ウルムは日本語の市名用例から添える読みです。字体の調整を、日本語での読みやすさや、ドイツ語の発音の再現と同一視しません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ウルム

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

乌尔姆

暫定制定都市名

烏爾姆――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

既存の乌尔姆から二字の字体を調整したので「改」です。無変更で採用する「既」や、日本語の歴史原典での確認を示す「史」とは区別します。

人口はDestatis年次版による2025年12月31日現在130,288人。2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計で、人口・自治体境界とも2025年12月31日、2026年8月刊の版です。範囲はUlm, Universitätsstadt、自治体識別番号08421000の市全体。別自治体のノイウルム(Neu-Ulm)を含めた合算人口や都市圏人口を用いません。


採らなかった表記と未解決点

烏姆は省略案、宇留夢は日本語の音を意識した創案です。いずれも本誌が比較のために作った形であり、確認した歴史表記でも既存の略称でもありません。

採用する烏爾姆についても、漢字の初出と選字者、日本語の歴史刊本での使用は継続調査です。市発行冊子に引用されたラテン語を、そのまま中世文書の原本確認の代わりにはしません。

古い集落名や解説冊子の都市図と、2025年の自治体人口が指す市域が同じであるとも主張しません。似た名前を持つ隣市を分けることと、歴史の各時代の範囲を確定することは、それぞれ根拠を要する課題です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百六十八号

次回はヴォルフスブルク(Wolfsburg)を予定しています。日本語の市名と漢字表記の根拠を確かめ、候補を比較します。