万国漢字志

都市篇 · ドイツ

万国漢字志 都市篇 第二百二十号|ヴッパータール――図版のカタカナと、伍・乌の別用字――

国会図書館の日本語見出しと中国大使館の伍珀塔尔・乌珀塔尔を比較。伍珀塔爾への字体調整、四字例外と読みの限界を示す。


図版の説明に添えられた町の名

国立国会図書館の電子展示で、懸垂式モノレールの図版に付いている日本語の見出しはヴッパータールです。一方、中国大使館のインタビュー掲載本文には伍珀塔尔市とあります。

長いカタカナを、何字の漢字で受け止めるか。二字・三字への短縮も比べますが、本稿では確認した四字の順序を残し、尔を爾へ調整した伍珀塔爾を暫定案にします。


歴史表記

ヴッパータールの日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典未確認です。 古い図版を扱う国会図書館の展示でも、今回確かめた日本語は現在の展示見出しと解説にあるカタカナです。

図版の題材が古いことと、その日本語見出しが当時から使われていたことは同じではありません。展示が挙げる原資料の刊行時に、日本語のヴッパータールや漢字名が印刷されていたとは認定しません。

今回確認した中国語の伍珀塔尔と乌珀塔尔も、日本語の古い漢字表記の発見ではありません。都市名の漢字の初出や選字者には、別の原典調査が必要です。


日本語での用例

国立国会図書館の電子展示「博覧会―近代技術の展示場」に、「ヴッパータールの懸垂式モノレール」という図版紹介があります。見出しと解説にヴッパータールを確認しました。本誌の現代日本語都市名もこれを用います。

ページは1900年のパリ万博に関する資料を示し、原資料の題名やマイクロ資料の情報を掲げています。ただし本稿で確認した日本語用例は、この電子展示の説明です。原図版内の文字や原資料の全頁を照合したものではありません。

解説にある路線の開通年などは、日本語表記の確認とは別の事項です。本稿では開通史を独立に検証したとはせず、都市名が日本語でどう示されているかに範囲を限ります。


中国語圏その他の表記との比較

中国駐ドイツ大使館の「吴恳大使接受德国《青年世界报》专访实录(下)」は、2020年3月5日掲載。質問と応答の本文で伍珀塔尔市を確認できます。

本文にはエンゲルス生誕二百年についての質問があり、11月28日や2014年の銅像寄贈にも言及します。それらの年月日を、この表記を確認した資料の掲載日や漢字の成立年へ置き換えません。

別の用字もあります。同大使館の2010年3月16日掲載の中国語競技会報告には、参加校の所在地として乌珀塔尔市が出てきます。伍と乌は異なる字です。この二つを同じ字の字体差として処理せず、確認できた現代中国語の別用字として残します。

本稿の比較の基礎には、2020年の本文で確認した伍珀塔尔を選びます。一資料を選ぶことを、中国語圏全体の唯一の正書法を決める行為とはしません。


二文字・三文字案の比較

伍塔

伍珀塔尔から二字を残す、本誌独自の短縮比較案です。短くはなりますが、珀と尔を除く理由を支える既存用例は未確認です。

通常の日本語の読みでゴ・トウと並べても、ヴッパータールとは読めません。短くするだけでは、長い都市名と漢字の読みとの距離は埋まりません。

伍珀塔

三字に収めるため、最後の尔を落とす本誌の比較案です。出典の前半は残りますが、原文の末尾を削った新たな形になります。この三字の既存略称を確認したわけではありません。

伍・珀・塔の通常の音読みを並べても、日本語の都市名を復元できません。三字に収まる利点と引き換えに、原文との対応を一字失う案です。

伍珀塔爾

伍珀塔尔の四字を保ち、尔だけを爾へ調整する案です。字体を変える操作はありますが、字数と順序をそのまま示せます。

二字・三字を標準とする本誌では、今回は四字の例外です。短縮の既存用例を確認できず、出典との対応を減らさないことを優先します。ゴ・ハク・トウ・ジという読みの例からも分かるように、普通の音読みだけでヴッパータールになるわけではありません。カタカナの読みを必ず添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ヴッパータール

所属国

ドイツ

確認した現代中国語表記

伍珀塔尔/乌珀塔尔

暫定制定都市名

伍珀塔爾――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

2020年の伍珀塔尔をもとに、尔を爾へ調整したため「改」とします。2010年の乌を伍に直したと説明するのではなく、どちらの用例を基礎にしたかを明示します。

人口はDestatisの自治体一覧年次版による2025年12月31日現在357,243人。人口・自治体境界とも同日を基準とする2026年8月版で、2022年国勢調査を基礎とする公式人口更新統計です。対象はWuppertal, Stadtの自治体全体。市内の地区や周辺の独立自治体、都市圏の人口を重ねて数えた値ではありません。


採らなかった表記と未解決点

伍塔と伍珀塔は、本誌が比較のために作った短縮案です。既存の二字・三字表記として確認していません。乌珀塔尔については用例を認めた上で、今回は別の確認例である伍珀塔尔を基礎にしました。

乌を烏へ置き換えるなら烏珀塔爾という本誌の調整案にもなりますが、その形自体の用例は未確認です。伍と烏のどちらが日本語のヴを十分に示せるかを、漢字の見た目だけで決めることもできません。

日本語の歴史的漢字、各中国語表記の初出、選字者は継続調査です。図版の制作年と現在の日本語解説の用例を分け、鉄道史や都市の成立史の問題を漢字表記の証拠に混ぜない姿勢も保ちます。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第二百二十一号

次回はビーレフェルトを予定しています。日本語の市名と、現代中国語の五字の表記を比べます。