皇帝の名をたどり、「薩拉戈薩」を考える
サラゴサ市の考古学案内には、現在の都市名とはずいぶん長さの違う Caesaraugusta が登場します。皇帝アウグストゥスの名にちなむローマ植民市の名前です。一方、スペインの観光当局が出す中国語冊子には「萨拉戈萨」。同じ場所を案内していても、時代と言語によって名前の姿は変わります。
歴史表記
サラゴサ市の「Caesaraugusta」は、イベリア人の都市 Salduie の上にローマ植民市が築かれたと説明しています。同市の解説によれば、紀元前14年ごろ、皇帝がエブロ川のほとりに自分の名を冠した都市を設けました。
ここで確かめたのは、遺跡を管理・紹介する市の現代の解説です。古代碑文そのものを判読したわけではありません。Caesaraugusta は古代の名称として区別し、現在の自治体の人口と当時の市域を重ねないようにします。日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典画像で確認できていません。
日本語での用例
スペイン観光公式サイトの日本語版は、見出しに「サラゴサ」、原綴りに Zaragoza を掲げています。本誌もこのカナ表記を用います。現代の日本語観光案内で使われることは確認できますが、漢字地名の歴史的定着を示す資料ではありません。
中国語圏その他の表記との比較
スペイン観光当局の中国語冊子『西班牙,文化的交汇』20ページは、アルハフェリア宮殿を扱う箇所に「萨拉戈萨」と記します。同じ箇所に Saraqusta の綴りも見え、現在の観光地と中世の都市の名を並べて読むことができます。
これは観光案内を発行する側が使った現代中国語の用例です。原資料の萨は引用中でそのまま残し、本誌の日本語用の提案では薩へ置き換えます。中国語の音写を、日本語の伝統表記と呼ぶことはしません。
二文字・三文字案の比較
薩戈
二字へ縮める案です。短い反面、原用例の拉と末尾の薩が落ち、「サラゴサ」との対応が追いにくくなります。
薩拉戈
三字なら冒頭からの並びを残せますが、末尾の「サ」に相当する部分がありません。ここで短くする利点は小さいと考えます。
薩拉戈薩
原用例の四字を保ち、二つの萨だけを薩へ調整する案です。四字という例外はありますが、元の用例と照合しやすい形になります。日本語の音読みを連ねても「サラゴサ」にはならず、とくに戈から「ゴ」は自明ではありません。都市名の読みをカナで添えます。
万国漢字志の暫定案
現代日本語都市名
サラゴサ(Zaragoza)
所属国
スペイン
暫定制定都市名
薩拉戈薩――改
制定状態
暫定制定・原典継続調査
「改」は、確認した中国語の「萨拉戈萨」をもとに、本誌が日本語用の字形へ調整したことを示します。調整後の表記が原資料に載っているという意味ではありません。読みはサラゴサとします。
INE(スペイン国立統計局)の年次センサス表68065によると、2025年1月1日の通常居住者人口は699,007人です。自治体コード50297の municipio 全域の値で、周辺の都市圏や同名の県の人口ではありません。市街地以外も含む行政区域の集計です。
採らなかった表記と未解決点
薩戈・薩拉戈は比較案にとどめます。薩拉戈薩という調整後の形について、日本語での先行用例を確認したとは主張しません。漢字表記の命名者や初出、日本語の古い地理書の字形は要継続調査です。
参考資料
- サラゴサ市「Caesaraugusta」。考古学解説冒頭、web抽出44–47行。現代の公式解説であり、古代・中世原本の直接確認とは区別する。
- スペイン観光公式サイト:サラゴサ。日本語の都市見出しと原綴り。
- スペイン観光当局・中国語公式冊子。PDF 20ページ、原字「萨拉戈萨」を画像・抽出テキストで確認。
- INE:Población según municipio y sexo、表68065。2026年11月7日保存版、2025年・男女計、自治体50297。68065.csv physical line121892。
- スペイン官報:スペイン憲法。第5条に国の首都はマドリードと定める。
- GeoNames:Zaragoza。保存済み都市索引の代表点。人口根拠や自治体境界とは区別する。
編纂綱領と公式サイト
本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。
次回予告|都市篇 第三百四十三号
次号の題材は、人口と都市の同一性の確認を経て案内します。
