万国漢字志

都市篇 · スペイン

万国漢字志 都市篇 第三百四十二号|サラゴサ――皇帝の名をたどり、「薩拉戈薩」を考える――

市の考古学解説のCaesaraugustaと観光当局の「萨拉戈萨」を比較し、日本語用の薩拉戈薩を提案する。


皇帝の名をたどり、「薩拉戈薩」を考える

サラゴサ市の考古学案内には、現在の都市名とはずいぶん長さの違う Caesaraugusta が登場します。皇帝アウグストゥスの名にちなむローマ植民市の名前です。一方、スペインの観光当局が出す中国語冊子には「萨拉戈萨」。同じ場所を案内していても、時代と言語によって名前の姿は変わります。


歴史表記

サラゴサ市の「Caesaraugusta」は、イベリア人の都市 Salduie の上にローマ植民市が築かれたと説明しています。同市の解説によれば、紀元前14年ごろ、皇帝がエブロ川のほとりに自分の名を冠した都市を設けました。

ここで確かめたのは、遺跡を管理・紹介する市の現代の解説です。古代碑文そのものを判読したわけではありません。Caesaraugusta は古代の名称として区別し、現在の自治体の人口と当時の市域を重ねないようにします。日本語の歴史的な漢字表記は、現時点では原典画像で確認できていません。


日本語での用例

スペイン観光公式サイトの日本語版は、見出しに「サラゴサ」、原綴りに Zaragoza を掲げています。本誌もこのカナ表記を用います。現代の日本語観光案内で使われることは確認できますが、漢字地名の歴史的定着を示す資料ではありません。


中国語圏その他の表記との比較

スペイン観光当局の中国語冊子『西班牙,文化的交汇』20ページは、アルハフェリア宮殿を扱う箇所に「萨拉戈萨」と記します。同じ箇所に Saraqusta の綴りも見え、現在の観光地と中世の都市の名を並べて読むことができます。

これは観光案内を発行する側が使った現代中国語の用例です。原資料の萨は引用中でそのまま残し、本誌の日本語用の提案では薩へ置き換えます。中国語の音写を、日本語の伝統表記と呼ぶことはしません。


二文字・三文字案の比較

薩戈

二字へ縮める案です。短い反面、原用例の拉と末尾の薩が落ち、「サラゴサ」との対応が追いにくくなります。

薩拉戈

三字なら冒頭からの並びを残せますが、末尾の「サ」に相当する部分がありません。ここで短くする利点は小さいと考えます。

薩拉戈薩

原用例の四字を保ち、二つの萨だけを薩へ調整する案です。四字という例外はありますが、元の用例と照合しやすい形になります。日本語の音読みを連ねても「サラゴサ」にはならず、とくに戈から「ゴ」は自明ではありません。都市名の読みをカナで添えます。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

サラゴサ(Zaragoza)

所属国

スペイン

暫定制定都市名

薩拉戈薩――改

制定状態

暫定制定・原典継続調査

「改」は、確認した中国語の「萨拉戈萨」をもとに、本誌が日本語用の字形へ調整したことを示します。調整後の表記が原資料に載っているという意味ではありません。読みはサラゴサとします。

INE(スペイン国立統計局)の年次センサス表68065によると、2025年1月1日の通常居住者人口は699,007人です。自治体コード50297の municipio 全域の値で、周辺の都市圏や同名の県の人口ではありません。市街地以外も含む行政区域の集計です。


採らなかった表記と未解決点

薩戈・薩拉戈は比較案にとどめます。薩拉戈薩という調整後の形について、日本語での先行用例を確認したとは主張しません。漢字表記の命名者や初出、日本語の古い地理書の字形は要継続調査です。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。 都市一覧は 万国漢字志 公式サイト で公開します。


次回予告|都市篇 第三百四十三号

次号の題材は、人口と都市の同一性の確認を経て案内します。