万国漢字志

都市篇 · セネガル

万国漢字志 都市篇 第四十三号|ジガンショール――四字「濟金紹爾」と「涙の町」伝承

ジガンショールはセネガル南部、ジガンショール州の州都。カザマンス川左岸の港湾・行政都市で、2023年のコミューン人口は21万4874人。

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四字を短くしない

都市篇第四十三号は、セネガル南部の州都、ジガンショールです。

前号のセディウからカザマンス川を下流へ進むと、左岸にジガンショールがあります。バイヌクの土地にポルトガルの交易拠点が置かれ、十九世紀末にフランス領へ移った都市です。

世界気象機関の世界気象情報サービス中国語版は、Ziguinchorを、

济金绍尔

と記しています。正字体へ直すと、

濟金紹爾

です。

ただし四字です。都市篇では二字・三字を主流としています。今回は、確認できた四字の直接用例を保つか、短い形を新たに組むかを検討します。


日本語では「ジガンショール市」

外務省の海外安全情報は、カザマンス地方の都市を「カップスキリング市及びジガンショール市」と記しています。現在有効な2026年の情報で、州名だけではなく市を直接指す日本語用例です。

同じ外務省の過去の海外安全情報にも、2000年代から「ジガンショール市」が繰り返し現れます。JICAの調査報告書も「ジガンショール市(Ziguinchor)」と記しています。現代日本語では、カタカナのジガンショールが継続して使われています。

国立国会図書館サーチでは、ジガンショール、Ziguinchor、濟金紹爾、済金紹爾を分けて調べました。今回確認できた公開書誌と検索可能な本文からは、この都市を指す日本語の歴史的漢字表記を特定できませんでした。

これは、過去の日本語資料に漢字表記が存在しないという証明ではありません。旧フランス領西アフリカやポルトガル領ギニアを扱う古い地図、地誌、航路資料には、全文検索できない画像本文も残ります。そのため、歴史表記は未収録とし、日本語原典の調査を続けます。


世界気象情報サービスの「济金绍尔」

世界気象情報サービス中国語版の都市一覧は、セネガルの項目に济金绍尔を載せています。対応する都市IDは2932です。

同じサービスの英語版で都市ID2932を確認すると、表記はZiguinchorです。中国語版の济金绍尔と英語版のZiguinchorが同一の都市IDで結ばれているため、ここでの四字は州名の一覧から切り出したものではなく、都市を直接指します。

中国語版は中国気象局中央気象台が制作・維持しています。これは現在の中国語圏における確かな都市表記ですが、日本語の歴史的漢字表記ではありません。また、世界気象機関や中国気象局が四字を最初に考案したことを示す資料でもありません。

簡体字の「济」「绍」「尔」を正字体の「濟」「紹」「爾」へ直した濟金紹爾を、日本語側の暫定制定都市名候補とします。文字の順序や数は変えません。


州都であり、国の首都ではない

セネガル国土整備庁の公式地理データは、Ziguinchorの集落点を州都に分類しています。都市ジガンショールは、同名の州と県の行政中心です。

一方、セネガル共和国の首都はダカールです。公式サイトの「首都」表示は国家首都かどうかを示すため、ジガンショールは首都ではないと登録します。紹介文では行政上の役割が消えないよう、ジガンショール州の州都と明記します。

同じZiguinchorという語が都市、コミューン、県、州を指します。地名用例と人口を扱うときは、資料がどの範囲を示すかを確認しなければなりません。


コミューン人口は21万4874人

セネガル国家統計・人口経済分析庁の『人口推計 2023―2073』は、2023年国勢調査を基準に、州、都市部・農村部、県、郡、コミューンを分けて人口を掲げています。

ジガンショールのコミューン行は、男性10万9399人、女性10万5475人、合計、

21万4874人

です。

同じ表にあるジガンショール県27万5501人、ジガンショール州61万7568人とは別の値です。JICAの近年の報告書にはジガンショール市の2023年人口として27万5501人とする記述がありますが、この数はANSD表の県人口と一致します。都市一覧では行政範囲を揃えるため、コミューン人口の21万4874人を採ります。

セネガル国土整備庁の公式KMLは、州都Ziguinchorの集落点を北緯12.58140155825045度、西経16.26364916174143度に置いています。小数第六位へ丸めた北緯12.581402度、西経16.263649度を地図に使います。

これは都市を示す集落点であり、コミューン境界の重心ではありません。人口の範囲と地図上の一点は役割が異なります。


バイヌクの地名と植民地都市

アサン・セック大学に提出された都市研究は、ジガンショールがもともとバイヌクの一集団であるIzguichosの土地だったと説明しています。IzguichosからEzéguichor、Siguitiorを経てZiguinchorへ変化したとする説で、バイヌク語の「or」を土地の意味に解します。

同じ研究は、ポルトガル側が1645年にジガンショールへ要塞化した交易拠点を設け、1886年の仏葡協定でフランスへ譲渡され、1888年にフランスが実際に占有した経緯をまとめています。1904年から1909年にかけて、ジガンショールはセディウに代わってカザマンスの行政中心になりました。

ただし、ポルトガル人が無人の土地に都市名を新しく与えた、と単純化はできません。研究が採る説明では、土地と住民集団の名はポルトガルの拠点設置より前にあります。交易拠点を設けた人物を、そのままZiguinchorという地名の命名者ともみなしません。

植民地期の綴りには、Zenguichor、Ezeguichor、Iziguichor、Ziguinchorem、Ziguitchor、Sigicorなどの変異が記録されています。これらはラテン文字による地名史の資料ですが、日本語の漢字表記ではないため、歴史表記の一覧には入れません。


「涙の町」は民間語源

ジガンショールの名を、ポルトガル語またはクレオール語で「着くと泣く」「涙の町」を意味する表現へ結びつける有名な説明があります。奴隷交易の記憶と重なるため、現在まで広く語られてきました。

しかし、都市史研究はこれを伝承または民間語源として扱います。バイヌクのIzguichos、Izguichorに結びつける説明の方が、ポルトガル到来以前の地名と住民集団を説明できます。

2026年にセネガル紙『ル・ソレイユ』が紹介したRaphaël Lambalの都市史も、古いポルトガル語資料に現れるIzguichos、Ezguichosから地名が生じたと論じています。一方で、クレオール語の「涙の町」という語りが都市の奴隷交易の記憶を伝えることも記録しています。

二つの説明は役割が異なります。古い地名の形成を説明する説と、都市の歴史記憶を表す民間語源を混ぜずに残します。現在の都市名を一人で公的に定めた人物は、今回の資料から確定できません。


漢字形の命名者は未確認

漢字形济金绍尔について、四字を最初に選んだ人物と時期は確認できませんでした。

世界気象情報サービスの掲載担当者や中国語版の制作組織を、そのまま漢字表記の考案者とみなすことはできません。都市への直接用例が確かでも、表記の初出と制定過程は別の問題です。

そのため、都市名の命名者も漢字表記の命名者も未確認とします。人物欄は設けません。


二字・三文字案と四字形を比べる

濟金紹爾

世界気象情報サービスでZiguinchorへの直接対応を確認できる四字形です。ジ・ガン・ショー・ルの音のまとまりを保ち、同名の州や県との照合も容易です。

濟金紹

三字にできますが、末尾の「爾」を落とすため、語末のルに対応する手掛かりが消えます。この都市を濟金紹とする直接用例も確認できません。

金紹爾

これも三字ですが、語頭のジに対応する「濟」を落とします。確認した公的資料の用字ではありません。

二字へ縮めると、さらに多くの音の対応を失います。都市篇は二字・三字を主流としますが、字数だけを合わせるために既存形から一字を削りません。今回は例外として、直接用例のある四字の濟金紹爾を採ります。


万国漢字志への取り込み

暫定制定都市名には、四字の濟金紹爾を採ります。

根拠は、世界気象情報サービスの中国語版と英語版が同じ都市ID2932で济金绍尔とZiguinchorを対応させていることです。中国語圏の既存形を保ち、簡体字だけを正字体へ直します。

制定区分は創とします。日本語の歴史的漢字表記を復元するのではなく、中国語圏の既存表記を日本語の都市索引へ新たに取り込むためです。「济金绍尔」という文字列を本稿が初めて作った、という意味ではありません。


万国漢字志の暫定案

現代日本語都市名

ジガンショール

所属国

セネガル

中国語圏で確認した都市名

济金绍尔

暫定制定都市名

濟金紹爾――創

制定状態

暫定制定・日本語原典継続調査


採らなかった表記と未解決点

三字の濟金紹と金紹爾は、都市名としての直接用例がなく、原音の一部も落ちるため採りません。二字案も同じ理由で制定候補にしません。

未解決点は、日本語資料における歴史的漢字表記、Ziguinchorの古い綴りの変遷、現在の都市名を公的に定めた人物と時期、漢字形济金绍尔の初出と考案者です。

人口は2023年国勢調査を基準とするコミューン行です。県・州人口とは区別します。座標は公式地理データの集落点であり、行政境界の中心点ではありません。


参考資料


編纂綱領と公式サイト

本稿は万国漢字志 編纂綱領に基づいて調査・選定しています。

都市一覧は万国漢字志 公式サイトで公開します。


次回予告|都市篇 第四十四号

次は、ビニョナです。

ジガンショールから北へ進み、カザマンス地方の交易路に発達した都市の表記史を調べます。